不用心では?
私が威圧を放ったせいで一度へたり込んだラーマだったが、私がひざまずいたのを見て慌てて立て直した。そしてオロオロとし、私が動きそうもないのが解ると、ええいと立ち上がって祠の木戸に手をかけた。
…………この祠、鍵もついていないのか。少々、いやかなり不用心では?
邪教徒か一時邪教の手先となった若い子達とかが盗み出したりしていたらどうしよう、などという心配はよそに、祠を開帳したラーマは特に驚くことなく祠の中に何事か言葉をかけ始めた。
ホッ、よかった、ちゃんとあって。あとでセキュリティを強化しろと進言しておこうそうしよう。
それにしても。
「気配多すぎじゃない……?」
私はひざまずいた姿勢のまま、そろりと後ろを振り返った。
「おい、バレたか?」
「どうするどうする」
「とっくにバレてんに決まってっしょ。うちの姐さん玄人中の玄人すよ?」
ドヨドヨ揺れる気配に、妙にドヤッとしたツッコミが入る。言っておくが、私は『もはや玄人』と揶揄されるが本物の玄人ではない。
「もういいでしょうか、ミカを捕獲してきても」
「捕獲!?」
「どっ、どうかお待ちくださいまだ」
冷静でない玄人中の玄人がいる。
「おい、これ以上は現場が荒れる。ラーマ殿を止めろ」
「現場が荒れる?」
私は思わず口に出した。えっ、とラーマも声を出す。
「どうかなさいましたか」
「あっ、すみません。あの後方の藪から不穏な言葉が聴こえた気がして」
「後方の藪?」
じ、ラーマは目を細めた。がさ、と藪が揺れる。今のは素人隠密が多いせいだな。
「お下がりを」
ラーマは懐から作業用と思われるナイフを取り出した。
「大丈夫、あれは敵ではないです。半分は私の影ですし」
藪要員達もこれ以上潜んではいられないと思ったか、自らその姿を表した。
「…………ザコル様と護衛の皆様はともかく。どうして、帰ったはずのあなた方まで」
「へっへ、すまんなあラーマ。やっぱり何か変だと思ってな」
「シリルが素直すぎる上に、雪かきの量もおかしいし」
どうしても気になって引き返してきたらしい清掃班の面々は、一角に積み上げられた雪を見上げた。
「えっ、シリルくんならこれくらいやれますよね?」
「そんなわけありますか聖女様。あなたも何か魔法でも使ったんでしょう」
「? 魔法は使ってませんよ。だって、皆さんもラーマさんやシリルくんとは親戚でしょう。バレちゃうかもしれませんし」
清掃班の面々は二、三十代であろうラーマよりも歳上で、ラーマやシリルに対する物言いからいって対等か目上だ。そうなると中には『目』のいい人もいるかもしれない。
「確かに何も『視え』はせんかったが」
「さすがに、大の男がやるより雪の山積み上げてるんじゃな……」
「えっ、シリルくんならこれくらいやれますよね?」
『………………』
あれ、おかしかったか。あの子の走り込みを見る限り、これくらいの体力はあると思ったのだが。
「異界娘よ」
「はい、ジーロ様」
いかにも私の護衛ですみたいな顔で並んでいた人に向き直る。物言いは王様だが。
「いいか、十一歳の戦闘員でもない男児はこんな量の雪かきはできん」
「そうなんだ……」
観察不足だったか。
「それはそれとして、シリルの変装は見事であった。遠目には本人にしか見えんかったぞ」
「お褒めいただきありがとうございます」
「それでだな」
「ミカ」
ずい。
「おいザコルおま」
「シリルの影武者祭りは見事でしたがどうしてラーマに大好きなどと言ってやらなければならないのか説明してくれますか」
息継ぎなしだ。根に持っていたらしい。
「えっと、ほだされると判定が甘くなるからです」
「そうですかなるほどてきめんでしたねもうミカに戻ってください」
「戻ってますけど」
「ええい下がれザコル。俺の話が途中だ」
「ミカを捕捉していていいですか」
「好きにしろ」
わ、と言う間もなく抱き上げられてぎゅっとされた。
「はあ、藪から見ているだけが、こんなに不安になるなんて」
「ふふっ、素直ですねえ」
いーこいーこ。
ひそひそ。少年の格好をした変な女にヨシヨシされているムキムキの人を見て、清掃班が眉を寄せている。
「俺からいいでしょうか」
ジーロの隣で調書らしきものを持った人が平然と手を挙げる。こちらの様子のおかしさには慣れたらしい。
「はい、ノムラさんどうぞ」
「ありがとうございます」
そういえば、ザコルとエビタイはいるが、サゴシと穴熊とペータがいないな。どこに潜んでいるのか。
「そこの神像なのですが、盗まれたとの情報があり」
『えっ』
私とラーマと清掃班が同時に祠を振り返った。そしてラーマが祠に駆け寄って中を改める。
「あっ」
さああ、と離れた所からでも判るほど彼は青ざめた。
「あの、もしかして、偽物だった、とか?」
「……はい、よくできた木像と入れ替わっております」
「そうですか。やっぱり眼鏡を探してきてあげますね」
「……お願い、いたします」
あるといいな、眼鏡。
「なんてこった……」
「まさか」
清掃班も動揺している。
「あの、参考人を呼んでおりますので、ここに通してよろしいでしょうかミカ様」
「参考人? どうぞどうぞ。そんなの私の許可なんて取らなくていいですよ」
「では」
ノムラは一旦敷地から出て、外で待っている者を呼びに行った。
つづく




