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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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『シータイの聖女』ですから

「蒸気砲、水蒸気爆発、か。大袈裟に言っているけど、卵を電子レンジに入れたみたいなことだろう?」

「その通りです」

「それでこの威力か。しかし、次から次へとよく考えつくね、君は」

「恐れ入ります」

「うん、君自身が吹っ飛ばされたのでなければ褒めたかったよ」

「申し訳ありません」

「でも、面白そうだね。今度実験する時は僕も一緒にしたいな」

「もちろんです」

「おい」


 ぐわし、オーレンの胸ぐらが掴まれる。


「諌めるんじゃないのかオーレン。お前が許可を出してどうする!」

「やだなあ、僕はこれでも理科や数学は得意な方なんだ。実験するにしてもちゃんと手順は踏むさ」

「そういう問題じゃないっ、これ以上過激な攻撃手段を持たせてみろ、何かあったら真っ先に自分がと言って突っ込んでいくぞこの姫は!!」

「いやいや、いくらミカさんだってそんな特攻みたいな真似はしな…………しそうだな?」

「だからっ」


 キョエキョエ、つんつん。

 オーレンとイーリアの頭がつつかれる。


『スザク?』


 ミイミイミイ!

 私の頭もペチペチ叩かれる。


「ミイ」

「あの、ミリナ様の元へ行かなくていいんでしょうか……」


 黙ってそこにいたララが遠慮がちに意見した。


「はっ、そうだった! だからリア、一緒に来てくれ! 君かミカさんくらいしか彼女を止められないんだよ! 彼女が山に篭っちゃったら魔獣達も困るし!」

「揺さぶるな、何があったのか順を追って説明しろ」


 キュル、キュルル……。


 ミリューはどこかしゅんとしている。山に籠もられては困る、ミリューもそう思っているのだろう。


 キュル、キュル……。

 計画、破綻……。


「計画破綻?」


 ミリューは、ミリナにはこの里の女王として君臨してほしいとの考えを崩していない。そういう意味での計画だろうか?


 山の民の女衆に受け入れられたのなら、山の民の里に君臨する未来もなくはないと思うが、それは彼女の中でナシなのか。


 しかし、考えてみればそうか。ミリナが産んだのは山の民の子ではないし、ミリナも山の民の系譜とは全く無関係。今の体制のままミリナがトップに君臨することはさすがに難しい。魔獣達は意外と血統を気にするようなので、その辺りはちゃんと考えているのかも。


 しかもツルギ山は山派貴族とって共通の聖域なので、余所者の立場で乗っ取りなど企てれば四方八方敵だらけになってしまう。それはミリナも望まないだろう。


「っていうか、あれか。私という下僕を奉るための修行なんか許可できないってことだね、ミリュー」


 キュルルッ!!

 許可、不可、下僕!!


「許可が不可……? ああ、ミリューも下僕だから、ミリナ様に対して『許可できない』とか言っちゃうのは烏滸がましい、ってことかな。なるほど」


 徹底しているなあ……。下僕がミリナの立場を上回るのがとにかく解釈違い。うん、シンプルだ。


「相変わらず強火だねえミリュー。オーレン様、その、聖人を迎えるための修行? というのはどんなものなんでしょうか」

「えっと、まず、ミリナさんはオースト貴族出身だから、これまで山神様を信仰してこなかっただろう? だから、すぐにでもその教義で身を染めるため、三日三晩山のものだけを口にし、山神様がもたらす恵みの水を全身に浴びながら祈りを捧げる、だそうです」

「だそうです、とは。他人事ですか父上」


 当主のくせに他人事で解決も人に丸投げか、とザコルがにらむ。


「違うんだよっ、そんな儀式があるなんて僕も知らなかったし、実際の様子は見られていないんだ!」

「見られていないだと?」

「その水を浴びるって、この真冬に行水、いや、まさか滝行とかですか?」


 ラーマの方をうかがえば、彼は小さくうなずいた。三日三晩滝行とか、なんだそのガチの修験者みたいな修行は。


「ジーロによると、余所者の入信にあたり魂を試すための通過儀礼みたいなものだろうって。彼女元気そうに見えるけれど、最近まで伏せっていたんだろう。小鞠が無茶だって止めていたけれど、今夜から始めるって言って男子禁制の間に入っちゃったから、僕らには何もできなくて……」

「やば、最悪心臓止まっちゃうかも。イーリア様、行きましょう! 私も行きますから!」

「そうかい? それなら」

「ミカはお待ちになって」


 ぐい。腕を引っ張られて振り返れば、シータイ町長、マージだった。また気配なかったな……。


「ひょっ」


 女見知りオーレンがビクッとして再びイーリアの背後に引っ込む。


「ママ、マージ、君か……」


 オーレンは誰か解ってもまだびくびくしている。妻達が孤児から引き取って娘同然に育てた女性でもこれか……。でも、まあそうか。子爵邸の女性使用人ですら怖がってるもんな。


「ミカはわたくしどもが責任を持ってお預りいたしますわ。彼女は『シータイの聖女』ですから」


 にこ。


「マージ、お前は……いや」


 イーリアが何か言いかけて止める。


「おじいさま。母さまは、ミカさまをヤマガミさまの『せーじん』にすると決めたんですか?」

「イリヤ」

「おじいさま。もしそーなったら、せーじょさまはずっとサカシータにいるんですよね?」

「ゴーシ」


 少年達の無垢なる質問にオーレンが戸惑う。


「あら坊っちゃま方。ミカは聖人の座は望んでおりませんの。ですから無理強いなさってはよくありませんわ。テイラー家はもちろん、ジーロ様も反対なさっているそうですし」


 ほほ。


「ですからこのシータイで預からせていただきますわ。その方がのびのびと過ごせるでしょう」


 絶対に渡さんぞとばかりに、腕に絡みつく手に力が入った。




つづく

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