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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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投げますよ

 みんなして小走りで門を目指す。

 朱雀は大人しく待ってくれているだろうか。あまり待たせると向こうから飛んで来かねない。急がねば。


「姐さんさすがっす。なんかもう息するみてえに町長様に一封握らせましたよね」

「一封握らせた覚えはないのだよ」


 人聞きの悪いチャラ男である。ちょこっと力をお分けしたのは事実だが、闇は闇でも金ではないし、目的も救命措置であって、断じて賄賂的なものではない。後でイーリアには叱られるかもしれないが。


「とりあえず、サギラ侯爵様に連絡取ってもらえることになったし、昔の文献漁りスタートだね」


 サギラ侯爵家。サカシータの西隣に位置し、サイカ国とメイヤー公国との国境を含む広大な土地を領地とする家だ。その歴史は古く、オースト国に併合される前はツルギ王朝にも与しない、独立した小国だったとも言われている。


 現侯爵とその子息は『深緑の猟犬ファンの集い』古参メンバーでもある。水害時は真っ先に領境を超えてカリューへと自ら支援に入った。マージは、彼らがシータイ経由でモナ領へ向かったよしみで連絡係に指定されている。


「あと、どこ声かけるんすか」

「今回の邪教調査に関わるおうちには声かけられたらなと思ってるよ。モナ男爵家はサギラ侯爵家と同じでサカシータ家経由、ジーク伯爵家やカリー公爵家への声かけはセオドア様に相談するつもり」


 みんなで『香り』を媒介とした呪いの過去事例を漁ってみようの会である。勝手に始めちゃったけど、あの『魔封じの香』に関する情報は他領とも共有しているので、たぶん協力してくれると思う。たぶん。


「テイラー家の蔵書は私がほとんど目を通してるだろうから、さらってもらっても目ぼしい収穫がない可能性あるんだよねえ。見てないとすれば本気の禁書かテイラー家の機密に関わる資料とか……まあ、そんなのの開示はどこの家にも求めないけど、ワンチャン、呪いに関することだけ口頭で教えてくれるかもしれないし。訊くだけ訊いといて損はないよね!」


「姐さんさすがっす。なんかもう息するみてえに仕事増やしますよね」

「私は皆さんにお訊きするだけだから仕事はしないのだよ」


 欲を言えば協力を仰ぐ家の図書室全てを回って自分で資料を探したいくらいだが、そこは時間もないし我慢だ。


 キョエエエエ!!


「あ、やば。来ちゃった」


 遅えぞミカ様ーッ、とお守り役のリンゴ箱職人達の声がする。私は「すみませーん!!」と謝りながらスピードを上げた。



 

 かくして。朱雀VSメルヘンつよつよミカ軍の戦いは幕を開けた。


 ルールは至ってシンプル、時間内に朱雀が全員捕まえたら朱雀の勝ち、時間内に一人でも残っていたら私達の勝ち、と魔力を使ってなんとか説明した。


 条件は朱雀の方がかなり不利だが、それくらいしないと勝負にならない。人間は群れないと弱い生き物なのである。


 ちなみに、時間の管理は審判を引き受けてくれたリンゴ箱職人の皆さんにお願いした。みんなでイーチ、ニーイ、と五百まで数えてくれるそうです。


 キョエエエーッ!!


「ひええ、チーム戦にしたのにやっぱ私を狙い撃ちにしてくるううう」


 昨日の追いかけっこに呼んでやらなかったことをまだ根に持っているのか。意外に執念深いところもあるんだな……。


 隣を走っていたザコルがちら、と斜め後ろを振り返り、私の身体に手をかけた。


「ミカ。少し、投げますよ」

「投げ!? はいどうぞ!」


 ぶうん、ザコルが腕を振れば、私の身体がまるで野球ボールのように宙に浮く。


 キョエッ!?


 私とザコルを追って飛行中だった朱雀が素っ頓狂な鳴き声をあげる。空中では急な方向転換などできない。自分の進行方向とは真逆の方へ飛んだ私に慌てているようだ。


「は? 神が、飛ん……」

「わああああっミカ様があああああ!!」

「あんの鬼畜…っ、マジで投げやがった!」

「あっ、あの方向では誰も受け止められは……っ」

「いや姫様笑ってんじゃん」


 味方も大混乱である。


 彼氏に遠投よろしくぶん投げられるという意味不明な状況を満喫した私は、着地する直前に雪上へと魔法を展開、踏みしめられた雪をほどよい柔らかさへと変化させる。私の身体は、そこにモフン、と穏やかに突き刺さり、腰くらいの深さで止まった。


 よしよし、新雪ではなく、積雪数日後のちょこっと固まりやすくなった雪、再現成功である。


「しかーし。今日はこのまま沈んでっちゃうもんねー。ばいばーい」


 ずももも。私はそのまま、まるで赤と緑の某ブラザーズが土管に潜るかのように、下へ垂直移動していった。


 はあああ!? と主に味方と審査員のおじさん達から驚きの声が上がる。


 女が一人、にこやかに手を振りながら雪の中へ消えていくのだ。見ている方からするとさぞ不思議な光景だろうが、私自身そう複雑なことはしていない。


 自分の足元を中心として直径五十センチくらい円を意識して雪を溶かし、発生した水を脇に追いやっては壁にしていくだけ。作業を繰り返すほど『氷の土管』は雪下に延びてゆく。


 キョエエエーッ!!


 Uターンしてきた朱雀が私が消えた穴をのぞき込む。直径五十センチの穴なんて、とてもではないが朱雀の体躯では入れない。


 ガッ、ガッ。


 その入り口を広げようと、朱雀はくちばしを突っ込み始めた。


「ふふふ、入り口付近は土管を作る前に一旦沼にして、かなり厚めに再凍結させておきましたからね。そう簡単には割れないですよ」


 我ながらいい時間稼ぎだ。


 しばらく入り口を壊そうとしていた朱雀だが、手間がかかりそうだと判断したのか、くるりと回れ右をして飛んだ。他のメンバーを先に捕まえようと考えたのだろう。


 私はといえば、三メートルくらい雪中に潜ったところだった。さて朱雀も行っちゃったし、次の手に移らねば。このままタイムアップまで潜り続けていてもいいが、正直つまらないし、朱雀が戻ってきて魔法を使い出したら詰む可能性もある。


「朱雀様、確か火の魔法使えるんだよな。なんで使わないんだろ。ミリナ様に使っちゃダメって言われてるのかな」


 まあ、どう考えても威力強そうだしな……。うっかりして小さな町が火の海にでもなったら大変だ。


 さて。狭い氷の土管の中でうっかり蒸し焼きにでもされる前に、さっさとここを出て他のメンバーのフォローに回ることにしよう。




つづく

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