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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ちょこっとですから

 交渉、と一言で表現はしたが。


 遠慮するマージを『ちょこっと、ちょこっとですから』と口説き倒し、あからさまに嫌そうな顔をするザコルをなだめすかし、じゃあ俺がもらおーかなーとふざけて出てきたサゴシにはザコルとマージとついでにタイタが殺気を飛ばした上、メリーが見事な飛び蹴りをかまし、ペータがサゴシの冗談を間に受けてなぜか私を叱り出し、お願いします町長様こうなったらミカ様は引きませんとマージを説得してくれ、それでやっと話がついた。


 ちなみに。エビーは途中から声を殺して爆笑していた。まあ、通常運転の範疇ではあるが、もうお昼の時間だ。早くしないと朱雀が待ちくたびれてしまう。



「これが……ちょこっと、ですって」


 ぱさ。

 闇の力の供給をちょこっとだけ受けたマージの手の平から、USBケーブル……ではなく私のおさげがするりと落ちる。


「あれ、あげすぎちゃったかなあ。てへ」

「てへ、じゃございませんわ! こっ、こんなに力みなぎったことなど、今まで生きてきた中で初めてよ!」

「まーまー町長様。姐さんが初めてやることで普通に済んだことなんか一度もねーすよ」


 へらへら。

 チャラ男エビーのフォローともつかないフォローに、マージはわなわなとし始めた。


「エビーさんたら、笑い事ではありませんわ!ミカからこんなに力をもらってしまって、イーリア様になんとご報告申し上げたらよろしいの! 坊っちゃま、坊っちゃまも何かおっしゃってくださいませ!」

「だから初めては僕が貰い受けると言ったんです」


 むっすり。エビーが「なんか今のセリフ卑猥すね」とつぶやいてタイタにはたかれた。サゴシはメリーに蹴られた頬をさすりながらニヤニヤしている。メリーは無表情だが目がらんらんとしている。ペータはジト目である。


「もう、ザコルにあげたら意味ないでしょう? 魔力を消費してほしくて闇の力を使い込んでもらったようなものなのに。あ、マージお姉様。いつもの感覚で力を使うと効果が強まっちゃうかもしれないので、お気をつけくださいね」


 闇の力を貯めに貯め込んだザラミーアの能力が強まりすぎて、領都でインフルエンサーの皆さんが集団洗脳状態におちいった事件は記憶に新しい。


「効果が、強まる……」


 マージはゴクリと喉を鳴らし、自分の手の平をじっと見た。


「闇の力を意図的に増やして貯めるすべもあるんですが、ご興味あります?」

「……これを自分の意思で増やして貯める、ですか。正直興味はありますが、遠慮させていただきます。わたくし、主家の脅威となるわけにはまいりませんの」

「なるほど、分かりました。お姉様にもお立場がありますもんね」


 あっさりと話を引き上げた私に、マージはわずかに眉を寄せた。


「ミカはやはり、わたくしの能力をご存じなのね」


 警戒させてしまったか。私がいきなり彼女を『陰』の者と言い当てたせいもあるだろう。


「いいえ、全然知らないです。ただ、主家の脅威になりたくないとおっしゃるからには、サカシータ一族にも通用する力なんだろうなと思っただけですよ。でも無力化まではできない、そんな感じじゃないですか?」

「ええ、その通りよ。でも……」


 嘘でも方便でもなく、マージの能力が何なのかなんて本気で知らない。ただ、どんな能力にせよ相手にとって『多少効く』のと『大いに効く』のとでは危険人物度も変わってくる。『バケモノ』になりたくないという人に無理強いはしない、それだけのことだ。


「本当にご存じないのね……。どういった能力か気にならないのかしら。詮索なさればよろしいのに。ねえ、コリー坊っちゃま」


 詮索されたいんだろうか……。さっき警戒していたのはフリだったとでもいうのか。


「ミカは訊かなくてもいいことは訊きません。しかし、知る必要があれば脅してでも聞き出しますよ」

「それはそうでしょうね、ミカですもの」


 ザコルの言い分は分かるが、マージにまで首肯される私の存在とは一体……。


「ミカ、お察しのことと思いますけれど、わたくしの力はコリー坊っちゃまには効きません。ミカ、おそらくあなたにも」

「そうかもしれませんねえ。私達、魔力量も高いし、普段は持ってる闇の量も多いですから。でも、私は今あげすぎたので割とスッカラカンですよ。さっきジョジーにもらった分もあげちゃったし。その前に魔獣達に魔力を分けてもいますので、今なら効くかも?」

「試しませんわよ」

「ふふっ、残念」


 詮索する気はないが、以前ロットがビビり散らかしていたので、マージがどんなお仕置きをしてくれるのかは気になっていた。


「姐さんがスッカラカンってそれ、マジに相当な量じゃねえすか?」

「大丈夫なのですか、町長殿」


 エビーとタイタはマージを心配し始めた。


「わたくしは今のところ大丈夫です。あなた方はご自分の姫を心配なさいませ」


 そして叱られた。


「私も大丈夫ですよ。それこそ生粋の『陰』の人じゃないですから、闇がなくなっても体調に影響はないです。そうだ。今度は誰かからもらってみようかな。いいでしょう? ザコル」

「ええ、僕の闇ならあげましょう。他の人間からはもらわないでください」

「ふふ、はいはい。じゃあ、ザコルの力が回復したら試させてくださいね」

「ちょこっと、ならもう貯まっていますよ」

「ええ、もうですか。闇の力作るのに時間かかるのに……本当ならすごいですけど、それ本当に『ちょこっと』ですか?」


 初めてすることが普通で済まないのは私に限ったことではない。


「いいじゃないですか、僕のをあなたにあげられる機会なんて滅多にないんだ」

「ひぇ」


 ぺろ、舌なめずりつきで微笑まれ、心臓が跳ねた。


「なあ、情事はヨソでやってくれません?」

「情事などという単語を使うな」


 ズビシ。タイタの手刀がエビーの頭上に落ちる。サゴシはずっとニヤニヤしている。メリーはずっと目をらんらんとさせている。ペータは気まずそうにコホンと咳払いした。



 その後。


 昼食として出てきたサンドイッチを口に詰め込み、私達は待ちぼうけているであろう朱雀に会いに門へと走った。




つづく

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