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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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合理的配慮

「へー、髪すか」

「はあ、髪ですか」

「ほう、髪なのですね」


 そう、髪だったらしいのである。


 以前、ジョジーがザラミーアに闇だけ分けてあげると言って譲渡していたのを見たことがある。あの時もジョジーはザラミーアの肩に乗り、彼女の頬に自分の身体をすりつけていた。


 てっきり、その時は肌to肌の魔力譲渡を行なっているのだと思っていたが、どうやら体毛を介することで闇だけを渡していた、ということらしい。


「髪かあ。できれば試しておきたいな。マージお姉様、そこにいらっしゃいます?」


 私は今日もザコルが結ってくれたおさげの先をいじくりつつ、天井に向かって話しかけてみた。


「あれ? いると思ったのになー。じゃあしょうがない、うちの影チームの誰かに実験付き合ってもらおっと」

「ダメで」

「ダメですわ」


 ガコッ、ひらり、すとっ。


 天井裏からあんなに優雅に登場できるご婦人が他にいるだろうか、いやない(反語)。


「この髪は僕のも」

「ミカの髪はコリー坊っちゃまのものですわ」


 どーん。


 過保護な元世話係は、大事な坊っちゃまの言葉さえもさえぎり、まるで当然とばかりに言い切った。


「……マージ。町長としての仕事をしないなら、せめて部屋の中に立っていたらどうですか」

「あらコリー坊っちゃま。同じ部屋にいたら、いつまでもミカを離さない坊っちゃまをお諌めしないといけませんわ」

「………………」


 私が未だザコルのお膝に入れられている状況をツッコんでくれる人が現れた。坊っちゃまのストーカーお姉さんだけれど。


「ふふっ、こんなに貴婦人然としてるのに」


 ザコルの言う通りだ。闇の力を使い果たして心神喪失状態だった坊っちゃまが心配なら同じ部屋で一緒に見守っていればいい。それがどうして天井裏に潜んでいたのか。理由は簡単、坊っちゃまのお作法違反を咎めたくないから。つまり遠慮なく私を触っていただけるようにという合理的配慮である。


「まあ、ミカったら。このどこの馬の骨とも知れぬわたくしを貴婦人だなんて」


 マージは七歳まで孤児院で暮らし、その後サカシータ家に引き取られた人だ。


「お姉様はどこからどう見たって『貴婦人』ですよう。ノブレス……高貴って、精神のあり方の問題だと思うんですよね。私こそどこの馬の骨な上に、まだまだ『もどき』なので、参考にさせていただきたいです」

「ミカはどこの貴人よりも貴人らしいお方ですわ。それこそ、魂のあり方の問題でございましょう」


 ふふっ。

 お互いにどこか嫌味みたいな応酬をして、私達は笑い合う。ちなみにどこの馬の骨度なら負けない自信がある。


「はあ。食堂周りの人払いまでして、周到ですね」


 ザコルが溜め息をつく。


「致し方ありませんでしょう、コリー坊っちゃまが『陰』の者であるとは決して公表できませんもの」


 ザコルが強大な闇の力を有する者だというのは、最近まで本人にすら知らされていなかった領内でもトップオブトップなシークレットである。


 領主家は、末の双子にチャーム能力があるのを敢えて黙ってきた。多くのファンを抱え込み、一部の人生を狂わせたザハリもそうだが、ザコルも昔から男女問わず魅了しその身を狙われてきたという。


 双子はその度に自己防衛というか返り討ちにしていたらしいが、今更能力があったと公表してしまうと、当時の加害者が実は被害者だったことが知れ渡る。


 そうなれば、少なくともザハリと、ザハリを擁護してきたイーリアにまでヘイトが集まってしまうし、ザハリの子供達にも風評被害が及ぶ可能性もある。以上の理由から、サカシータ子爵オーレンは未だ秘匿の姿勢を崩していない。


「私の『陰』はバレてますよね?」

「まさか。イーリア様から決してバラすな広めるなと命じられておりますわ。ですが、ミカが今更どのような能力を隠していたとしても、うちの使用人であれば誰も驚きません」


 ここの屋敷のベテラン使用人の皆さんはみんな優秀すぎて、私に治癒能力があることとか、私とザコルが魔力をやりとりしていることとか、そういうのがもうまるっとまるまるバレている。


 ちなみに、その情報を悪用しそうな使用人は元町長を含め、残らずネズミ取りに引っかかって処分されてしまった。


「全く、ミカの武勇伝はとどまるところを知りませんわね。家を少し空けていたかと思えば、新しい魔法をいくつも習得しているのですもの」

「家、ふふ」


 マージはこれからも、ここを私の『実家』として徹底してくれるらしい。町民達も私の『里帰り』だと強調していた。きっと町長命令だろう。


「しかも、水温の魔法とは全く関係のない『陰』の力まで。あれは本来授かろうと思って授かれるものではないのに。この町の影達も、ますますあなたに魅入られておりますわ」


 影、といえば。コード・エムに参加している通称『暇してる影』の人々は何をしているんだろう。私達の影武者とともにシータイ入りしているはずだが。


「ハンゾウさん達って今、自分のおうちに帰ってるんですか?」

「………………」

「マージお姉様?」


 急に黙ったマージに首をかしげる。


「どうしました? 彼らに何か」

「……いいえ、何もありませんわ。当然のようにあれの名をご存じで驚いているだけです。あれは、自ら明かしましたの?」

「いえ、たまたま知ったんですよ。彼、集会所で避難民の名簿を管理してくれてましたから、顔は覚えていたんです。集会所に行ったらそれらしい人が避難民の方達に『ハンゾウ』と呼ばれていたようなので、あの人だと思って」


 あと商店で店番していた人とか、シータイに滞在しているうちに一言二言くらいは交わしたことのある人の多くが『暇してる影』として作戦参加に立候補してくれていた。


「ふふっ、皆さん私に存在を認識されているのが面白いみたいで、ぐふっふっふ、って笑ってましたよ」

「……もう、ミカは本当に人たらしですわねえ!」

「ですからたまたまですよ」


 その後の交渉により、マージは私の闇の力をちょこっとだけ受け取ってくれることになった。


 彼女はダイヤモンドダストの近くにいたので、これで消耗した分が少しでも回復すればと思う。




つづく

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