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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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嵐の翌日

 目を覚ますと、目の先にザコルの寝顔があった。

 手は握られたままで、隣り合った簡易ベッドで寝ているようだった。

 仮眠室の小さな窓から日差しが差し込んでいる。時刻は分からないが、雨は上がったようだ。

 私が少しでも身じろぎすればこの人は起きるだろう。初めて見る寝顔をぼーっとしながら見つめていた。


「ミカ…起きてますね」

 ザコルが目を閉じながら口を動かした。

「何で解るんですか」

「呼吸音で」

「鋭すぎでしょ…もっとリラックスして寝てくださいよ」

「ミカと出会ってから、僕はよく眠れてますよ…」

 ザコルはそう言うとすうすうと寝息を立て始めた。


 二度寝した? もしかしてすごいレアな場面じゃない? 超可愛くない?

 ああ、撫でたい、あの伸びかけのモサモサしかけた髪とか撫でたい。


「…ミカ、独り言がうるさいです。まだ大して時間は経ってませんよ、ミカこそもっと寝てください」

 ザコルはそう言うと手を握ったのとは逆の手で私の目元を覆った。

 手のひらの温かさが目の奥にじんわりと入り込む。私はすぐに二度寝に堕ちた。




 カチャ、という小さな金属音に目を覚ました。

「ミカ、すみません、起こしましたね」


 夜明け頃に寝始めてから、まだ四時間とか、それくらいだろうか。

 寝起きの目に入ってきたのは、ザコルが武器を収納した革ベルトを装着しているところだった。昨日は気づかなかったが、マントがないので上着の下にベルトを装着しているようだ。


 今、彼の上半身は半袖の白い肌着一枚だ。

 半袖から覗いた太い腕の筋肉と、逞しい首と鎖骨のライン。

 布一枚に覆われた厚い胸筋が、差し込む朝日によって陰影を際立たせている。


「えっろい」

「何ですって?」

 私は毛布で顔を覆い、目に毒な光景を遮断した。

「なぜ隠れるんですか」

「今…なんかされたら…しぬから…」

「そうですか。じゃあ、このベルトは一旦外しましょう」

「何で」

「抱き締めていいんでしょう?」

「誰がそんな事を言った」

「さあ、寝たまま上から抱き締められるのと、座って抱き締められるのとどっちがいいですか?」

 寝たまま抱き締められる方が破壊力抜群のような気がして、私は迷わず身を起こした。


 ザコルは私の簡易ベッドに腰を下ろし、顔を覆い続けていた毛布を引っぺがして私を抱き締めた。肌着一枚向こうから体温と肌感がリアルに伝わってくる。


「しんだ…けど、温かくて気持ちいい…」

 温もりと安心感には抗えず、背中に手を回してぎゅっと体を押し付ける。

「ミカ」

 ザコルが私の頭頂部に顔を寄せ、次に目の端に寄せた。そして頬に寄せる。

 違う、これ、キスされてる。

 肩を持って体を剥がされ、口元に顔を寄せられた。離れようとした時には頭を完全に手で押さえられていた。柔らかな感触が唇に触れる。唇を軽く食まれる。


「よし、寝たな。これであと数時間は休めるでしょう。さあ横になって目を閉じて」

 ザコルに再び毛布をかけられた辺りで記憶が途切れた。



 ◇ ◇ ◇



 次に私が起きた時、ザコルは仮眠室の中にはいなかった。


「よし、寝たなって何?」

 人を心身喪失させることに手慣れすぎてないか。

 よし、寝たなじゃないんだよあの魔王は情緒もへったくれも無いスキンシップを何だと思っていやがるこんちくしょうめ。


 ぷりぷりしながら身支度をして仮眠室のドアを開けると、扉の前にはエビーがいた。

「あ、おはよーございますミカさん。そろそろ昼過ぎってとこすよ」

「寝過ぎじゃん…。おはようございます」

「いや、別に寝過ぎってこたねえすよ。寝たの朝っしょ」

「ザコルは?」

「朝方、山の民による避難民回収に同行したようすね」

 行ってくれと頼んだのは私だが、四時間ちょっと寝ただけでもう行ってくれてしまったのか…行動が早すぎる。

「エビーもお疲れ様。ちゃんと寝た?」

「俺らは鍛えてますからね。どうって事ねーっすよ」

 エビーも三時間ほどの仮眠の後、ここでザコルと警備を交代したようだ。

 タイタは現在門で荷馬車の誘導をしているらしい。ひっきりなしに救援と避難民が来るせいで門の方もずっと忙しかった事だろう。



「私だって途中二回ほど起きたんだよ。なのにその度に寝かしつけられて」

「惚気の予感がするからそれ以上は言わなくていいすよ」

「うん、思い出したらフリーズするやつ」

「思い出さんでくださいよ。患者が一人増えるでしょうが」


 私はエビーと一緒に集会所へ向かっている。空はよく晴れていて、水たまりに反射する日差しが眩しい。


 集会所の周りは避難民と町の人と山の民とモナ男爵領から来た人でごった返していた。

 お互いを軽んじる事も揉める事もなく、協力し合って避難場所を運営しているようだ。避難民の中には昨日私が押し付けた民族衣装を着こなす人も散見された。


「ミカ様、お疲れ様です。よく寝られましたか」

「服をありがとうございました」

「なんとお礼を申していいか」

「お疲れじゃありませんか」

「無理しないでくださいね」

「ザコル様に会われましたか」

「何か食べられましたか」

「今そこで牛乳を配っておりますよ」


 山の民を始め、昨日集会所や救護所で顔を合わせた人々が次々に声を掛けてくれる。

 昨夜はバタバタとしていたせいか、適当に返事をして聞き流していた言葉達がさらさらと心に流れてくる。きっとよく寝て余裕ができたせいだろう。睡眠大事。私は一つ一つ笑顔で言葉を返していった。



 集会所の入り口外に昨日まで無かったタープが張られ、その下でリラを始めとした山の民の子供達が人々に牛乳を配っていた。タープの後ろには中が見えないテントもいくつか張られている。


「おねえさん、こんにちは。ぎゅーにゅーどうぞ」

「リラ、おはよう。ありがとう。私の事はミカって呼んで」

「ミカ、さま?」

「ミカ」

「えっと、ミカ……ぎゅうにゅー、いる?」

「いるいるー。ありがとう」


 私はリラから牛乳を受け取ってその場で飲み干した。

「ぷはー! この一杯のために生きてるー!」

 牛乳がこんなに美味しいものとは初めて知った。日本では飲もうと思えばいつでも飲めたのに知らなかった。

「ミカ!」

「えっ」


 声の方を見れば、急いで駆け寄って来る人がいた。

 服はあちこちがドロドロで、足元は泥を吸ってビタビタと重そうだ。


「ザコル!? 下流に行ったんじゃ…」

 同時に荷馬車も到着したらしく、集会所の中から避難民の出迎えのために人が出てくる。

 集会所の中に入れる前に、外に張ったテントで避難民達の汚れ落としをする仕組みに変更したようだ。衛生面でもその方がいいだろう。賢いな。


「何を飲んでるんですか、まさか酒」

「これですか? 牛乳ですけど」

「はあ、何だ紛らわしい…」

「避難所でお酒配ってるわけないでしょ。というかもう戻ってきたんですか?」

「様子を見に来ただけです。ミカ、口の周りに牛乳がついていますよ」

 ザコルが胸ポケットからハンカチを出して拭ってくれる。今日のハンカチはまだ無事のようだ。

「ナチュラルにいちゃつくのやめてくれます? 地元の方々がどよついちゃってんじゃないですか」

 エビーに言われ、周りを伺うと確かにどよどよしている。皆遠巻きだが。

「ザコルさま、ミカのおかあさんみたいだね」

「ぐふっ……!」

 リラの無邪気な言葉が胸に突き刺さって吹き出す。


 普段からだらしない私も私だが、ザコルがあまりにも自然に世話を焼くのですっかり麻痺していた。

 ザコルはこちらのご領主のご令息だ。そのお方に身の回りの世話をさせているのは色んな意味でマズい気がする。と言うか絶対にマズい。


「エビー、いちゃついている訳では断じてありません。これは仕事です。ホノルからミカの顔が汚れたら拭くようにと言われて、予備のハンカチをたくさん持たされましたので」

「そうなの!?」


 確かにホノルは私の世話をザコルに引き継ぐとは言っていたが、何を引き継いだのかとずっと疑問だった。とりあえず、顔を拭くなんていうのは断じてザコルの仕事ではないと思う。


「ミカと言えど大人ですし、顔が汚れるなんて事がそうそうあるのかと思っていましたが、意外と役に立っています」

 思えば、飲み物吹いたり、大泣きしたり、牛乳つけてたり…。

 そういえばちょくちょく何かを拭かれていた気がする。

「ていうか、ミカと言えどって何…?」

「もっともらしい事を言って強がるくせにすぐ子供みたいに泣くミカと言えどですよ」

 ぐうの音も出ない。

「他には、靴を履いたまま寝そうになったら脱がすようにとも言われました。それも果たして僕の仕事なのかと疑問でしたが、確かにミカには必要でしたね」

 うんうん、とザコルが頷く。

「ミカさん、そのロングブーツいつも脱がされてんすか? いや、えっろ。えろすぎ」

「いつもじゃないよ! たまにだよ!」

 えろえろ連呼すんなこのセクハラ騎士め。

「たまに? 二日に一度くらいの頻度はたまにと言うのか…」

「もういい。ザコルなんて知らない。みんなに深緑のエロ魔王って呼ばれればいいんです」

「だから魔王って何なんですか!?」

 ご令息本人がどんどん墓穴を掘り進めているせいで、周りのどよどよが一層大きくなっている。


「ははは、ザコル坊ちゃん、表情豊かになられましたなあ。ミカ様、おはようございます」

 近くで声がしたので振り返ると穏やかな表情の男性が立っていた。


「お疲れ様です、モリヤ」

 ザコルがペコっと挨拶をする。

「守衛のモリヤさんだ! 昨日の朝以来ですよね。もしかしてずっと門に立たれていましたか?」

「ええ。少し休んだ所ですが。これからまた交代に行く所ですよ。今、ミカ様の護衛殿が頑張ってくださってますんでね」

 タイタの事だ。

「馬車や人がひっきりなしで大変だったでしょう?」

「それはミカ様もでしょう。明け方までずっと救護所に詰めていたと聞いておりますよ。私達サカシータの民のために、本当にありがとうございます」

 モリヤさんが手を差し出したので私も差し出した。

 モリヤさんは私の手を両手で包み込んで何度も何度も頭を下げてくれた。



 交代に向かうモリヤさんを見送ると、ザコルが私とエビーに向き直った。


「ミカ、エビー。僕はもう一度、下流へ行ってきます。被害状況を再確認して、あちらを動けない者への支援も手配してきます。夕方には絶対にここに戻りますので」

「はい。ちゃんとここで待っていますから。あ、そうだ、ちょっとだけ待ってて」

 私はエビーを連れて仮設救護所の方へと走り、昨日自分のコートとともに置き忘れていたザコルのマントを取って集会所へと戻った。

「ザコル! これ、要るでしょ。これが無いと深緑の魔王じゃないですし」

「猟犬です!」

 ザコルの突っ込みに、私はエビーと一緒になって笑った。



 ザコルがマントを羽織って荷馬車の方へと駆けて行く。

 下流行きの荷馬車には支援物資をいくらか積んでから発っているようで、ザコルはその中身を素早くチェックすると、単独で門の方へと駆け出して行った。

 彼の場合、荷馬車に乗るより走った方が速いのだろう。

 山の民の男性達も荷馬車の御者として奔走し続けている。きちんと交代で休息を取ってくれている事を願う。


「本当に、よっぽどの事なんですよね。またミカさんから離れるなんて」

 エビーが、納得いかないと言外に滲ませて呟く。

「私が下流の町に行って欲しいってしつこく頼んだんだよ」

「は?」

「ザコルが行けば助かる命がきっとあるし、下流の実情も知りたかったからさ」

 私はエビーになるべく平常を装って言う。

 自分が言い出した事だが、目の前でザコルが背を向けて去っていくのを見ると、心細さで胸が軋むように痛かった。

「マジかよ、ミカさん、ザコル殿が帰ってきて泣いて喜んでたじゃないすか。大体、ミカさんはここの貴族でも何でもねえのにどうしてそこまで尽くす必要が」

「ザコルはここの貴族でしょ。貴族には責任がある、そうでしょ? 人命がかかっている時に、こんなに元気な私を優先するなんてあり得ないの。それにね、ザコルはエビーとタイタを信用してるんだよ。そうでなければ、私も荷物としてあの荷馬車に積まれちゃってる所なんだからね」

 なるべく早口で捲し立てる。

 自分でも何であんな事言っちゃったんだろうと心の片隅で思わなくもない。でも、自分のせいで助かる命が助からなかったらと考えるだけで怖かった。

「……ああ。まあ、それは確かにそうすね。あの魔王ならミカさん抱えたまま救助活動しかねねえわ。そーしなかっただけマシってことか。はーあ、しょうがねーなあ魔王は。これっきりですよ」

 エビーが少し表情を和らげて言った。

「解ってくれてありがとう。頼りにしてるからね」


 いつの間にか側に寄ってきていたリラが私のスカートを引いた。

 もう一杯牛乳を貰ったら、今日も精一杯頑張ろう。


 ◇ ◇ ◇


 集会所がしっかり機能しているのを見届け、衛生用品など、不足しているであろう布製品をチェックした後、私とエビーは再び仮設救護所の方へと赴く事にした。


 エビーは救護所の隅で、自分の荷物にあった携帯食糧を渡してくれた。炊き出しやパンの数も限られつつあるので、私達の分は他の避難民に優先して回して欲しいとお願いしていた。


 牛乳だけは町長夫人の計らいで町外への出荷を全ストップし、町にいる全ての人へ配られている。

 最悪、牛乳さえあれば完全に飢えることはないかもしれないが、例えば大怪我をして血を失った人、妊婦や授乳中の母親などは、それだけでは足りるとも思えない。


「これからどうしようかね、モナ男爵領からの支援が無くなったら数日ももたず完全に詰むよ。王家には連絡してるのかな」

「こんだけの被害なんで連絡くらいしてるでしょうけど、かのサカシータ一族の脚をもってしても片道三日はかかる距離すからねえ…。仮に支援が届くとしてももっともっと先になるでしょうね。その前にテイラーやジークから何か支援があるかもしれないすけど」

「サカシータ子爵家と隣合った領と言えば、東方にサギラ侯爵家があるはずだけど、あの川はサギラ領も通ってるから今頃あちらでも被害が出ているかもしれないね…」

 とすれば、そちらの領からの支援はあまり期待しない方がいいかもしれない。


「昨日、さっさとモナ領に救援を呼べって言ったミカさんの判断は間違ってなかったって事すよ。この救護所や避難所の開設だってそうだ。ミカさんがいなきゃこの町はとっくに詰んでるとこだったんだ。あの町長の野郎め、ウチの姫にもっと感謝しやがれっての!」

「大袈裟。そりゃまあ、あの町長に任せといたら今頃目も当てられないことにはなってただろうけどねえ。一応、放っておいても、あの町長夫人さんが手を回してくれたかもしれないよ。それに私だけじゃなくて山の民のリーダーさんも一緒に説得してくれたし、彼らは荷馬車も出してくれてるしさ」

「だとしても感謝が足りねえっす、感謝が!」

 エビーは携帯食糧を牛乳で流し込み、さっさと怪我人の手当てに向かっていった。

 お昼時なので宿の厨房も忙しそうだ。


 私も気合いを入れがてら民族衣装の頭巾を頭にキュッと巻き、救護所の隅に座って古着の余りを解く作業の続きに取り掛かる。

 先程避難所にいた女性達に、この地方で普及している布オムツや布ナプキンの構造をざっくりと教えてもらった。針と糸も借りてきたので、今日はそれらを縫う事にした。


 何はともあれ、目の前の事をやれるだけやるしかない。

 本当なら患部を腫らしたり発熱している人達のために氷を作ってあげたい所だが、不特定多数が出入りする避難所で力を公表する訳にはいかない。襲われでもしたら逆に迷惑がかかるだろう。

 何かを隠れ蓑にこっそり使う事をずっと考えていたが、いい案が思い付けずにいた。


 ◇ ◇ ◇


 もう少しで夕方になるかという頃、外がにわかに騒がしくなった。町民が興奮した様子でどこかに駆けていく。


 その内に町長夫人が救護所に駆け込んできて私を呼んだ。

 彼女によれば、サカシータ子爵家の第一夫人、イーリアが町に物資を持ってやってきたと言う。私は縫いかけの布を置いてエビーに声をかけた。

「どうしようエビー、私昨日と同じ格好なんだけど」

「非常時に誰も服装なんか気にしねーすよ。早く行きましょう」

 急かす町長夫人の後に付いて早足で集会所に向かう。


 これから、ひと冬お世話になろうってお宅の奥様にこんな形でお会いしてしまうとは。心の準備もへったくれもない。しかも中途半端に聞いた前情報のせいで『イーリア様像』が全く想像できない。


 隣国の元伯爵令嬢で、元騎士団長…? 野獣の肉をおやつに…? 大家族の母…? ザコルの義理のお母様…?


「ミカさんミカさん! あっちですよ! 何やってんすか!!」

 気が付いたら集会所じゃない方へ行きかけていた。

「まさか緊張してっとか…」

「きききききんちょーなんてしてないよおおお」

「滅茶苦茶緊張してんじゃないですか! 姐さんともあろうお人が! しっかりしてくださいよ! タイさんの反省文読みますか!?」

 エビーは懐からバサッと紙束を出して私に押し付けた。

「はあ!? これ、まさか持ち歩いてんの!?」

「はい。もしもの時のために。読み上げましょうか?」

「いい、いい! 緊張どっか行った! よし、なるようにしかならないよね! 急ごう!」

 半ばやけくそ気味になって走る。集会所の近くまで来ると、タイタが待ち受けていた。

「ミカ殿! お供します!」

「タ、タイちゃん…!」

「タイチャン?」

「タイちゃん、サカシータ家のお一人っていうか、イーリア様いらっしゃってるけど大丈夫…!?」

「だいじょびません!!」

 思わずマンガみたいにずっこけた。

 とっさにエビーが受け止めてくれたので水たまりにダイブしなくて済んだ。セーフ。


 エビーは盛大に溜息をつき、腕を組んで私達を睨みつけた。

「タイさん。いいすか、最悪固まっててもいいからその場に立っててください。ミカさんはいい加減落ち着きましょう。お二人ともこれ以上最年少の俺に諭されやがらないでください」

『はいすみません』

 タイタと二人でシュンとしつつも早足で進む。道の先で町長夫人がそわそわと待っていた。



 集会所の外に人だかりが出来ている。キャーキャーと女性達の黄色い声が上がる中心にそのお方はいた。


 男性並みに背が高くすらっとした体躯、シンプルなシャツとスラックスに軍靴、使い込まれた革鎧、細身の長剣。 美しく踊る髪を高い位置で一括りにした、ド迫力の金髪碧眼美女だった。同じ金髪碧眼の美人でも、お人形のようなアメリアとは方向性が全く違う。

 最低でも五十代後半かそれ以上のはずなのに、とてもじゃないがそんな年齢には見えなかった。


「ああ、マージ、久しいな」

 マージとは町長夫人の事だ。イーリアは片手を上げ、軽い調子で声を掛けた。

「イーリア様! お久しゅうございますわ。悪路の中物資をお届け下さり、誠に感謝いたします」

 町長夫人がスカートを持ち上げて深々と頭を下げる。

「川の上流から回り込んだので時間がかかってしまった。兵らに徒歩で背負えるだけ背負わせて来たが、あまり足しにならんだろう。川の水位が下がり次第追加を届けさせよう。マージ、此度は急な事態に見事対応してくれたな。礼を言う」

「いいえ、わたくしだけでは到底対応などしきれませんでしたわ。此度の最大の功労者であらせられるお方をご紹介させてくださいませ」

 町長夫人もといマージがすっと横に身を引き、手のひらで私を差し示しながら頭を下げる。

「えっ」

「呼ばれてんのは姐さんすよ、ほら」

 エビーに背中を押された私は一歩踏み出し、半ば反射的に民族衣装のスカートをつまみ、カーテシーの格好を取った。


「お初にお目にかかります。テイラー伯爵家より参りました、ミカ・ホッタと申します。サカシータ子爵第一夫人様、お目もじ叶いまして恐悦至極にございます。ご子息であるザコル様には大変お世話になっております」


 緊張していたのに、口を開いたら自然に挨拶定型文が流れ出てきた。マナー練習を頑張ってよかったとこれほど思ったことはない。

 公衆の目はあるが、第一子爵夫人様との初対面だ。ストレートに苗字を名乗ることにした。どのみち私のフルネームなどそうそう知れ渡ってはいまい。


「貴殿がミカ殿か。よくぞこの辺境まで参られた。サカシータ伯爵が第一夫人、イーリア・サカシータだ。こちらこそ愚息が世話になっている。その上、多くの領民を窮地から救い上げてくださったと。わが領は貴殿に返し切れない恩をいただいたようだ。深く深く御礼申し上げる」


 イーリアは惚れ惚れするような立ち姿で、胸に手を当てて男性風の礼を取る。

 これはキャーキャー言ってしまう気持ちが分かる。滅茶苦茶カッコいい。男装の麗人とは彼女のためにある言葉に違いない。

「イーリア様、それにマージ様。私には勿体無いお言葉でございます。昨夕から、この場におられる全ての方々がご自分にできることを必死にしてくださいました。誰もが功労者であり、賛辞を受けるに値するかと。どうか、皆様へ等しく労いのお言葉を頂戴したく思います」

 町長は除くが。そういえば町長はどこだ。

「ほう?」

 イーリアは私の言葉を受け、どこか値踏みでもするように顎に手をやった。


「まあ、なんて謙虚でいらっしゃるのかしら…。どうかしら、皆。イーリア様にご報告申し上げることがあるでしょう」

 マージがそう呼びかけると、昨日から集会所で避難民の世話をしていた町の女性達や、居合わせた避難民達が我先にと進み出てきた。イーリアの部下らしい男性達が私やイーリアに近づきすぎないよう押さえる。エビーとタイタも私の脇をそれとなく固めた。


「もちろん! もちろんありますとも! この集会所は、他ならぬミカ様が最初に避難所として支度をしてくださったんです。男女で仕切るようにとか、必要になりそうな資材もテキパキとご指示くださった。それはもう見事な手際でございましたよ!」

「避難民の名簿を作るようにもおっしゃって。あの名簿のおかげで、引き離された家族もすぐに合流できました」

「まだ避難民の数も分からないうちから、農作業小屋の方も借りて整えてくださっていたよ。あっという間に満杯になっちまった」

「ミカ様が診療所の他に救護所を作ってくれたおかげで、何とかパンクせずに済んでるって医者先生が言ってたぞ」

「傷病人や妊婦や赤ん坊の保護も真っ先になさってくれたわ」

「子の夜泣きで寝られない私のもとに、何度も白湯を届けていただいたのよ。夜通し包帯を煮ていらしたのも知ってるわ」

「あの町長を説きふせて、すぐパズータに助けを呼ばせたのもミカ様よ」

「パズータの人らが来なけりゃ共倒れだった」

「山の民に頼んで避難を助けるよう指示したのもミカ様だろ」

「俺ら、あの馬車が来なけりゃあそこで野垂れ死んでたぞ!」

「山の民はみんなしてミカ様のご指示だって言ってたんだ!」


 皆が次々に言い募り、騒然とする。

「ちょ、ちょっ、私のことはもう…」

「はいはい、静かにおしよ! 山の民からも言っときたいことがあるってさあ!」

 山の民ーッ、いいぞ言ってやれーッ、と野次めいた声が上がる。

 山の民の女性達が一斉に礼をした。

「それでは。まずはシータイの皆様にお礼を。山に帰ることもままならない私達に温かい毛布や食べ物をありがとうございました」

「何言ってんのさ、お互い様だろ。小さな子らもいるってのに、一緒になって避難民の世話してくれて、こっちこそ礼が言いたいくらいだよ。荷馬車も動かしてもらってるしさあ…」

 山の民の女性達とシータイの女性達が頭を下げ合う。


「こちらのミカ様は、危険を省みず我らが同胞をお助けくださいました。幼いリラの言葉を信じてザコル様と一緒に駆けつけてくださった。ザコル様とミカ様がおられなければ、今頃息子と孫はこの世におりませんでした」


「ザコル様とミカ様ご本人方が今も率先して民のために動かれているのですから、我らが動かずにいられましょうか」

「ミカはやさしいんだよ! チッカでもしんせつにしてくれたの!」

「民の着る服がないからと、とっておきの金を差し出し、わたしらの古着をまるごと買い取るとおっしゃった。それを自らも身に纏いながら一つ一つ民に配っていらしたよ。ねえ、お嬢ちゃん」

 長老のおばあちゃんがウィンクを寄越してくる。

「山の民の男達は避難民の迎えと救助で出払っておりますので、私達女衆が代わりに申し上げます」

「ザコル様とミカ様に、最大の謝意と忠誠を」

 山の民が揃って膝をついた。それにを見たシータイの人々や避難民の皆も頭を下げ始める。


 冷や汗が湧いてきた。


「そ、そ、そんな大袈裟な! 頭を上げてください! こここ今回は色んな偶然が重なってたまたまお役に立てただけですので!」


 ブンブンと手を思い切り振って皆を制す。頭が混乱してきた。今までどんなに連勤・徹夜記録を伸ばそうとも、人様からこんな感謝を受けた事などなかった。どうして、どうして、と脳が自問を繰り返す。

 というか山の民の皆さんはなぜ私にまで忠誠を? 魔王の方だけでいいじゃないか。誰も頭を上げてくれない。何で? 私が貴族の縁者だから!?


「わ、私がもといた所は水害や地震の多い土地でした。避難所開設の知識は多少はありましたがほとんどは記憶頼みや勘です。本当はもっと効率のいいやり方があったはず。そう、防災についてもっとちゃんと勉強してくれば良かった…」

 そうだ、学ぶべき事ががまだまだあった。これで役に立ったなどとはとても言えない。

「一体何言ってんすか、現状ミカさんより詳しい奴なんて…」

「山の民の皆さんが荷馬車を貸してくださったのは本当にありがたいことです。パズータの皆さんが助けて下さったのだって、普段からシータイの皆さんとの誠実な交流があったからこそでしょう? そちらの長老様と子供達とはチッカの屋台で先にお会いしてましたから、古着があるとたまたま知ってたんです。お金だって元々私のお金じゃないし。それから、リラが一生懸命に走ったからこそシリルくん達は助かったんですよ! そしてザコルがいなければ私が救助に加わるなんてできなかった。そうだ! 全部ザコル様のおかげです! ね、そうでしょ!? そうに決まってます!!」

「ミ、ミカ殿、少し落ち着いて」

「そ、それに、私が寝こけている間に集会所はどんどん効率化されています。たった一晩でこの対応力は素晴らしいです。今も門でずっと人と物資を受け入れて下さっている男性方もいます。町全体を見据えて陰日向と采配なさっているのはマージ様です。護衛二人もよくやってくれています。私なんてこの二人の近くで包帯煮るかオムツをちまちま縫うくらいしかできないんです。だからどうか私をこれ以上持ち上げないでください!」

 一気に捲し立て、居た堪れなくなってサッとエビーとタイタの背後に隠れる。


 はあ、とエビーが溜め息をついた。

「ミカさんはもう。子供みたいな照れ方せんでくださいよ。ほら、出てきてくださいって」

「あんなに力を尽くしておられたのに。どうして誇りに思われないのですか」

 護衛二人によって背中をグイグイ押され、再び前に出されてしまった。

「……申し訳ありません。取り乱しました…。あまり褒められ慣れていないもので」

 顔が赤くなっている自覚はある。恥ずかしくて俯いた。


「ふっ、はは、ははははは」

 イーリアが笑い出した。どことなくザコルが声を出して笑った時に似ている。血は繋がっていなくとも家族なのだな、と思う。


「はは…失礼、テイラー伯爵から連絡が来た時は、一体どんな姫が自ら願ってまでこんな辺境に来られるのかと思っていたが」

 イーリアは可笑しそうに目尻を拭い、再び男性風の礼姿を取った。


「聡明かつ謙虚、慈愛と行動力に溢れた聖女ミカよ。ようこそ我が領へお越しになられた。貴殿がどんなに謙遜しようとも、ここにいる者達は貴殿への感謝を生涯忘れる事はあるまい。どうか、その気持ちを受け取ってやってくれないか」

 顔を上げて周りを見れば、なんと、まだ誰も頭を上げずにいた。…今、聖女ミカとか呼ばれたのは聞かなかった事にしたい。

「あの、どうか皆様、お顔を上げてください」

 皆の顔が全てこちらへと向くのを待つ。


「皆様、私からも謝意を。突然現れた私の話を真剣に受け止めてくださり、本当にありがとうございます。こうして皆様のお力になれた事こそ、私の生涯の宝物となる事でしょう」

 私の方から皆に頭を下げる。護衛二人も後ろで頭を下げてくれているようだ。


 パチパチと拍手が湧き起こる。ミカ様、ありがとう、と温かい声や笑い声があちこちから聴こえてくる。

 私は笑顔で顔を上げた。


「ところで、ミカ殿。貴殿の専属護衛だったはずのうちの愚息はどこへ行ったのかな。そちらのテイラーの騎士達は本来ここまでついてくる手筈ではなかったろう」

「ザコルは下流の町に行っ……ヒイッ! ち、違います違います!」

 イーリアからビリッと圧を感じて変な声が出た。先程引っ込んだはずの冷や汗が再びどっと湧く。

「私が人命救助と現状把握のために行って欲しいとお願いしたのです! ザコル様は任務を放棄するわけにはと渋られていましたが、私があまりにしつこいので気持ちを汲んで行ってくれました! 私の! 我が儘で! 下流の町に行きました!」

 ざわざわざわ…。そんなにおかしいかな!?

「ふーむ、なるほど。庇っているわけでは…」

「庇ってなどおりません! ザコル様は、私がそう言い募るので、その言葉に甘える自分を決して許さないで欲しいと…おっしゃって……」


 もしや、私はザコルに何かとても酷いことを強いたのだろうか。彼の信条や経歴を傷つけるような事を。


「サカシータ子爵夫人様。発言をお許しいただけますでしょうか」

 エビーが声を上げた。

「構わない」

「では。おっしゃる通り、我々テイラーの騎士は同行予定ではありませんでしたが、訳あってルート変更した二人の行方を追い、三日前にモナ男爵領内にて合流しました。安全上の事由でやむなくルート変更した旨は既に確認済みであります。成り行きではありますが、たまたま運良く我々はをお守りできる状況にありました」

「だから、ザコルは君達にミカ殿の護衛を任せて下流の救助を優先していると。そう言いたいわけだな」

「その通りです」

「なるほど」

「わ、我々も! 元々ミカ殿専属の護衛隊員です! しっかりお守りできるよう選抜された者だけで構成されております!」

 タイタが反り返る勢いで姿勢を正して言った。

 イーリアはそんな騎士二人を微笑ましいものでも見るようにふっと笑った。

「いや、すまない、貴殿らの腕を疑っているわけではないのだ。知りたいのは、愚息に仕置きが必要かどうかという事だけだ」


 ゴゴゴゴゴゴ…という効果音が聴いた気がした。


「正当な理由なき場合、任務の途中放棄は軍であれば厳罰に処される事案ゆえな。テイラー伯爵から愚息が命ぜられたのは尊き姫の御身の死守だろう? 誤解のないよう言うが、これは身分どうこうの話ではない。私は我が領の民をすべからく愛しているし、救助にも全力を尽くす。だが、愚息には立場というものがある。シノビの流儀を守る犬である以上、主の命令は絶対だ。それがいかに姫の願いでもな」


 私の身の安全が確保されているかどうかは関係なく、専属護衛としての任務を放棄した時点で厳罰を受けるのはザコル…。ああ、これはやってしまった。このイーリア相手では言い逃れできないかもしれない。


「もっ、申し訳ありません! 軽率でした。この件は私の無知が招いた結果です。ザコル様が処罰されるなどとは思い至らず…。身勝手な正義心のために彼に酷い仕打ちを…」

 どう言葉を紡げはザコルが責められずに済む? 往生際悪く頭をフル回転する。気温は肌寒いくらいなのに暑くてたまらない。


「イーリアさま! ミカをいじめないで!」


 突然リラが私とイーリア様の間に転がり込んできた。

「リラ!? ダメ、下がって、イーリア様はいじめてなんかいらっしゃらないよ」

「だってミカがかわいそう。ミカはザコルさまに、みんなをたすけて!っておねがいしただけでしょ。ザコルさまは、おとうさんとおにいちゃんをたすけてくれたもん。きっともっと、たくさんのひとをたすけてくれるもん!」

「そうだねリラ、私もそう思ったんだよ。でもね、私がそれを命令したら、私じゃなくてザコル様が偉い人に叱られてしまうんだよって、イーリア様は教えてくださったんだよ。ザコル様もきっと解っていたと思う。でも、私を悲しませないために救助へ行ってくれたの。だから、私が我が儘で物知らずだったんだよ…」

 リラを宥め、顔を青くした母親に返す。

 イーリアはリラを咎める気は無いらしく黙って見ている。周りも静まり返った。


「イーリア様、ご子息にご迷惑をおかけし大変申し訳ありませんでした。甘い認識を改め、今後は命令違反となるような行いを決して強いないと誓います。今回のみ、どうか今回のみお見逃しいただけませんでしょうか。私にはザコル様が必要なのです」

 イーリアに対し、深く深く頭を下げた。


「僕が何ですって、ミカ」

『へ』


 振り返ると人だかりの中からぬっとザコルが現れた。いつの間にか群衆に当のご子息が紛れていた事にびっくしたのは私だけじゃなかった。にわかに大騒ぎとなった。


「ザ、ザコル殿! 完全に気配断つのやめてくださいよお!! 心臓に悪いでしょうが!!」

 エビーが自分の胸を押さえて叫んだ。

「エビー、タイタ、それに山の民達も。ミカの護衛をありがとうございました」

「ほう、我が家の愚息殿ではないか。この非常時に姫の御身を人に預けて一体何をしている」

 殺気がイーリアからほとばしる。美人の殺気怖いエグい死にそう。

「義母上、これ以上ミカを怖がらせるのはやめてください。お叱りは後で受けますので」

 ザコルはそんなイーリアに平然と返す。

 そして、イーリアの存在を無視するかのように私に向き直った。


「ミカ、ありがとうございます。あなたの申し出のおかげで僕は故郷の人の力になれました」

 彼は私に恭しく頭を下げ、周りにも聞こえるように話し出した。ざわついていた人々もザコルに注目する。


「騎士団から派遣された救援部隊が到着したので諸々は引き継ぎました。僕の方では、未明から数時間救助活動に従事したのち、あちらの高台にあった空き家利用し、こちらと同じような避難所として整備してきました。何故かサギラ侯爵側から有志を名乗る商人達が続々と現れ、食糧や物資を運んで来てくれています。信用できる者達と判断しましたので、彼らと騎士団員、そして難を免れた地元の民に避難所運営を任せ、僕は先に引き揚げてきました。これからこの義母や他の兄弟もあちらに合流して采配を振るう事でしょう」


 ザコルは未だに殺気を引っ込めないイーリアをチラッと見る。

「ミカ、あなたの采配によって僕は充分に能力を発揮できたと思います。これ以降はあなたの護衛に戻ります。だから、どうか泣かないで。下流に充分な救援が来るまでの空白時間、僕を向かわせたあなたの判断は正しかった。まあ、護衛としては、もう少しお転婆を控えて欲しい所ですが…」

「うん……うん、ごめんなさい、ありがとう。本当にありがとうございますザコル…っ、うぇ…」

 ザコルが泣き出した私の肩に手を置く。

「あ、すみません僕、泥だらけでした」

 ザコルがパッと私を離したので目をやるとたしかに泥だらけだ。一度乾燥してこびりついた泥を洗濯で落とすのは骨が折れるだろうなと思った。


 小さな拍手が聞こえたので振り返るとリラだった。

「ミカ、よかったね」

 拍手の音は段々と大きくなって場を埋め尽くすまでになった。

 急に恥ずかしくなってザコルのマントに隠れようとしたら、拍手の主達は笑い出した。


 イーリアが頷いたのを合図に、マージが声を掛けて皆をそれぞれの持ち場へと下がらせる。リラは私に再び駆け寄ろうとしたものの、こちらにお辞儀を繰り返す母親によって集会所の中へ引っ張られていった。あれ、絶対お母さんに叱られるやつだ。

 あの少女には後で必ずお礼を言いに行こう…。


 ◇ ◇ ◇


「私もあの場で水を差す程無粋ではない。だが、仕方ないでは済まさんぞ」

「すみません義母上。承知しております」

 こっちでもお母さんに叱られそうな子がいる…。いや、リラもザコルも私のせいで叱られてるんだけど。


 イーリアとその部下というか側近らしい男性数人、マージ、ザコル、私、エビー、タイタは集会所から離れ、町長屋敷の前に移動していた。


「イーリア様、お叱りなら私も一緒に受けさせてください! 何が悪かったのかしっかり反省したいのです。どういう事が軍規違反になるのか知って、今後はザコル様が責められないようにちゃんと考えて動きたいと思います。どうかお願いします!」

 私は拳を握りしめてイーリアに縋る。

「…私も数多の部下を叱咤してきたが、自ら叱られたいという者はなかなかいないぞ。ミカ殿、誤解の無きよう言うが、私は貴殿を責めたいわけではない。その向上心には感心するがな」

「いいえ! 私が悪いのです! こんな事なら私を置いて行くように言わなければ良かったんですから」

 私がそう言うとザコルがはああ、と深く溜め息をついた。

「ミカ。もしも僕が自分が処罰されるからと言って、下流行きの件を断っていたらどうするつもりだったんです」

「そりゃ、荷馬車に…えっと…」

「荷馬車に、何です」

「私が、下流に行く荷馬車に乗り込めばいいぶえっ」

 ザコルに片手で頬をむんずと掴まれ、変な声が出る。


「そういうところですよミカ。そもそもこの地に同行すると言い出した時からそうだ。自らの危険など考えず、現場に突っ込めば何とかなると考えるのがミカですよね。軍規などについて聞いてどうする気です。小賢しいあなたの事だ、どうせ何かあったらルールの穴を探し出して突こうって魂胆でしょうが」

「にゃべにゃかっか!」

 何故分かった。

 ルールに抵触せずに問題解決しようとする事の何がいけない。

 何とか掴まれた手から顔を離す。

「だ、だって、ザコルが処罰されたら困るじゃないですか!」

「あなたに無茶をさせるどうかは、僕がその都度判断します」

 今度はザコルからゴゴゴゴという効果音が聴こえる。やっちまった。

「今回の場合、あれ以上食い下がって強硬策に出られても困りますし、この町で大人しくしていてくれるならそれに越した事はなかった。つまり、僕が処罰される方がマシだった。それだけですので」

「むぐ…」


「……そういえばミカさん、もしザコル殿が俺らを信用できなかったとしたら、あの荷馬車に詰め込まれてる所だって言ってましたもんねえ。なるほど、あれは最悪自ら詰め込まれてザコル殿が同行せざるを得なくしてやるって意味だったんすか。へえー、ほおー、気付かなかったなあ」

「むぐぐ…」

 エビーが一歩こっちに詰め寄ってくる。


「よもや、ミカ殿はご自身が危険のある地域へ飛び込んでまで人命救助を優先させる気だったのですね。それは護衛として流石に看過できません」

「むぐぐぐ…」

 タイタまでもが私を囲む輪に加わる。


「なるほどな、姫は見た目の可憐さに似合わぬ豪胆さをもお持ちのようだ。護衛泣かせも程々にせねば。お望み通り説教しようか」

 イーリアも加わり、完全に四方を囲まれた。


「しっ、四面楚歌…!」

 ゴゴゴゴゴゴゴ…。これは詰んだ。


「まあまあ皆様」

 町長夫人、マージが優雅に声をかける。

「ザコル様もすぐお戻りになりましたし。ミカ様も危険が分かっておられたからこそシータイに残るとおっしゃったのでしょ。さあさ、我が町の恩人様を離して差し上げてくださいませ」

「マージ様ぁ…!」

 救世主はほほほと上品に笑った。


「マージ、そういえばドーランは、町長はどうした」

 不意にイーリアがマージを振り返った。

 今の今まで本気で忘れていたようだった。一応町の長なのに。

「ミカ様ではございませんが、夫は先程、率先して荷馬車に乗り込んで下流の手伝いに行きましたわ。イーリア様にご挨拶をと言っても使命があると言って聞かずに」

「逃げましたね」

 ザコルがフン、と鼻を鳴らす。

「まあいい。どうせこの後私もあちらに行くからな。いい機会だ。マージ、お前には町長権限の全てを与える。これ以降はお前が町長として励め」

「まあ、町長が女では示しが…」

「ドーランで示しがついた試しがあるか。いくら前町長の息子でも、あのような者にこれ以上長の座は与えられぬ。この度の災禍でよく解った事だ。私が一筆書こう。パズータへの感謝状も預ける。また後日挨拶に伺うと伝えておいてくれ」

「かしこまりました」

 マージが深々と頭を下げる。


 イーリアはこちらへと向き直った。

「ミカ殿。私はこれからくだんの下流の町へと行ってくる。あなたの目線で、何か気をつけるべき事はあるか?」

「そんな、治政にお詳しい方にご意見する程の知識は…」

 イーリアは隣国の騎士団長でもあった人だ。きっと見聞も広いはず。

 恐縮する私の肩をザコルが叩いた。

「ミカ、サカシータ領内でこんな規模の水害が起きるのは極めて稀です。雪解けの時期に川が氾濫する事はありますが、それだってもっと小規模なものです。正直、水害に対しての知識や備えが足りませんし、他に専門家のあてもありません。下流の町は小さな町とはいえ被害は甚大でした。義母は、これから連鎖的に起こるかもしれない被害をなるべく食い止めたいと考えています」

 ふ、とイーリアが口角を上げる。

「そういうわけだ。何でもいい。小さな気づきでもいいのだ。どうか聞かせてくれないだろうか」


 どうやら私が水害に知見があると見て、意見を吸い上げようとしてくれているようだ。

 ポッと出の怪しい女である私でも二次災害、という言葉くらいは知っている。私の知識程度で役に立てるかは分からないが、とりあえずは知っている事を話そう。期待外れならそれでいい。


「そうですね…。ではご存知かもしれませんが、水害の後には疫病が流行りがちです。基本、泥水には多くの病原が含まれると思ってください。泥を被った物はほぼほぼ捨てないといけません。食器などを再利用されるのなら、しっかり洗浄してできれば煮沸消毒などもした方がいいと思います」


 現代日本ではあまり無い事だが、東南アジアなどの方では洪水が起きると腸チフスやコレラなどが流行ると何かで読んだ事がある。あれは社会の教科書だったか。


「なるほど、以前、大河川のある領の者から疫病の話を聞いたことがあるな。原因は泥水か…」

 イーリアは側仕えに声を掛け、メモを取らせ始める。


「住宅は確か、泥を掻き出した後に念入りに水拭き、できれば洗浄して、しっかり乾かす事が大事だったはず。木材や金属を使っていると腐食して倒壊するかもしれないですし、後々カビなんかが生えて胞子を吸い込むと肺を悪くもするので。そうだ、泥が乾いた後は風で巻き上がるかもしれませんから、肺を守るためにしっかりと口と鼻を布で覆って作業するよう伝えてください」


 災害後の片付けの様子をテレビで見た時は、マスクに手袋にゴーグルまで着けている人もいたはずだ。

 ゴム手袋やゴーグルは手に入らなくても布マスクくらいは用意できるだろう。肺は大事だ。肺炎になったら生死に関わる。


 イーリアはふむふむと頷いている。


「避難所に人が集まる事によって起きる感染症にもお気をつけください。定期的に換気をし、食材はよく火を通し、飲み水は必ず煮沸して。清水が余っていればですが、なるべく手洗いをよくさせ、トイレの管理も徹底させてください。決して増水した後の川の水を直接飲んだり、排泄物を川に流す事のないように。より下流の被害にもつながりますので」


 発展途上国では川を伝って疫病が広がる。きちんとした浄水システムのないこの世界では、同じく致命的な被害になりかねない。


「それから、下流の事とは関係ないかもしれませんが、雨が上がったとしても土砂崩れの危険はすぐになくなりません。しばらく一般人を山に近づけないため規制を敷いた方がいいと思います。雨の続いた山合いや麓近くの地域に住む人達には、今からでも避難を呼びかけた方がいいかと」


 これもテレビのニュースでよくアナウンスされる事だ。

 雨によって地盤が緩んでいるので、雨が上がっても油断してはならない。


「分かった。それはすぐに山の民達と川向こうの町にも報せを出そう」

「流石はミカ。予想以上の情報量ですね。その小さな頭のどこに入っているんですか」

 ザコルが私の頭をツンツンしてくる。


「私の故郷では常識の範囲です。後は、そうですね、過労にも配慮を。泥を掻き出す作業は時間もかかりますし、かなりの重労働と聞きます。緊急時だからと必ず無理をする方が出ますから、適度な休養を取るよう勧めてください」


 かの大震災の後では、過労によって命を落とすボランティアの人がいたと聞く。


「過労がどうとかって、ミカさんが言うんすか?」

「そうです、全然寝てくださいませんでした!」

 エビーとタイタが文句を言い出す。


「もう、ごめんって二人とも。どのみち昨日は眠れる気がしなかったんだよ。そうそう、この災害でトラウマを抱える方もいると思います。後回しにはなるかもしれませんが、親しい人を亡くされた方や、怖い思いをされた方の話を聞くなど、心のケアが必要かと」


 そう言うと、ザコルとイーリアが同時に手を伸ばしてきて私の頭を撫で始めた。

「な、な、何ですか……?」

「ミカにも心のケアが必要なのかと思って。本当は怖かったんですね」

「濁流を見たのだろう。可哀想に、眠れない程とは」


 よしよしよしよしよし。

 大人二人に頭を撫でられるという奇妙な状況に脳がフリーズしかけたが、何とか持ち直した。


「ち、違います! 私が眠れなかったのは、周りが動いているのに自分だけ休む状況に耐えられなかっただけです! ザコルもなかなか戻ってこないし…」

 じろ、イーリアが『お前のせいか』と言わんばかりにザコルを睨む。

「ザコル、お前、家に連絡を入れた後すぐここに向かったのではなかったのか?」

「…家に連絡を入れた後、上流に回り込む道すがら土砂崩れに遭った者達を助けていたらここに着くのが明け方近くになりました。途中現れたジーロ兄様に引き継ぎましたので、のちに報告があるかと思います」

「何度も言うが、お前の仕事は姫の御身の死守だ。決して泥さらいではないぞ」

「はい、理解しています。しかし、あれは放置しなくて本当に良かったと思っています」

「ほう? 理由くらいは聞いてやる」

 ザコルは頷く。

「先手を打てました。実際、ミカは少ない情報から山で土砂崩れがあった事まで察知していました。僕が対応したと報告していなかったら、絶対に行動を起こしていたはずです」

「姫は千里眼でもお持ちなのか?」

 イーリアが驚いたような呆れたような私に目を向けてくる。

「いえ、土砂崩れを予見していたのはザコル様ですよ。私は、遠くで聞こえた轟音と鉄砲水と、彼の『街道を逸れない方がいい』という言葉で何となく察しただけです。ですが流石に自分で土砂崩れの救助に行こうなどとは思いませんよ」

 もし今朝までに解決済みと知らなければ、捜索隊を組むよう進言くらいはしていたかもしれないが。


「でもまあ、そうですね、事前調査というか様子見くらいなら私にもできなくは…」

 ザコルに肩をガシッと掴まれ、据わった目がこちらを見下ろす。

「あなたは厄介な事に博識で勘も良く行動力も抜群だ」

「えっ、ありがとうございます…? やっかい?」

 やっかい、厄介?

「川での救助のことも腹立たしい事に絶妙なアシストでしたし、土砂崩れは大丈夫だったかと問われた時は正直ゾッとしました」

 褒めてんの? 貶してんの?

「僕だって、この町にいる避難民の数や状況を見て下流へ救助に行くべきだと思いました。だからこそ命令違反は承知の上であなたの話に乗っかったんです。いわば同罪です。ですが、いい加減に、捨て身の考えは改めろこのクソ姫が!」

「クソ姫!? べ、別に捨て身なんかじゃありませんよ! 大体私なんかよりこの国の人の命を優先するのは当たり前でしょ!?」

「何であなたがこの国の人間に尽くす必要がある!? そういうところが厄介だと言っているんだ!」

「厄介とは何ですか! 助かる命は一つでも多い方がいいに決まってるでしょ!」

「お人好しにも程があるだろうがまずは自分の身を優先しろと僕は…!」

「私はちゃんと護られてます! この緊急時に動ける人間が動いて何が悪い! ザコルだって何だかんだ言って甘いっていうか、人命がかかってたら迷わず走っていける人のくせに!」

「僕とあなたでは立場が違うんだ!!」

「違わないって!!」

 互いに普段の口調も忘れてギャイギャイ言い合う。

「まあまあお二人とも…」

 マージがオロオロとする。

「ザコル殿いいぞーもっと言ってやれー」

「そ、そうだそうだー」

 エビーとタイタは覚えとけよ。


 パンパンとイーリアが手を叩いたので、私もザコルも黙る。


「双方の言い分は分かった。ザコルは下がれ。ミカ殿に必要なのは手駒だな。ザコル以外に使える手駒を配置しよう」

「えっ、て、手駒ですか…?」

 急な話の転換について行けずに復唱してしまった。

「そうだ。護衛以外に、貴殿の手足となれる実働部隊が必要だろう。そうすればザコルを動かさなくて済む。貴殿に対する謝礼の一つとして受け取ってほしい」

 部下を付けようという話で合っているだろうか。

「あの、それは、この緊急事態が終わるまでというお話でしょうか」

 恐る恐るイーリアに聞く。

「いや、この子爵領で過ごす当分の間だ。必要ならそのままテイラー領へ連れて行っても構わないが」

「え、えええ…!? 私、部下が必要な程の仕事量なんて持っていませんが!?」

 ザコルが首を振る。

「いえ、名案です。流石は義母上。このクソ姫はとある調査も進んで引き受けてきていますから。良かったですねミカ。これで僕とずっと一緒にいられますよ」

 ニコォ…と魔王が笑う。

「ひぇ……」

「僕が必要なんでしょう。ミカ」

 やべ、変なスイッチ押したかも。

「下がれと言ったぞザコル。調査の件は聞いている。この件が一段落したら領内でも邸でも自由に調べるがいい。例の新人にも会ってやってくれ。我が家は貴殿を歓迎する」

「あ、ありがとうございます、イーリア様。改めまして、この冬の間、どうぞ宜しくお願いいたします」

 深く頭を下げる。


 例の新人というのは中田(仮)の事だろう。

 この水害ですっかり忘れていたが、私は中田に会い、渡り人について知るためここまで来たのだ。




 顔を上げると、町長屋敷に向かって走ってくる人影が見えた。


「奥様ぁ! 大変です、何やら商人らしき団体が押し寄せてきています!」

 門の辺りにいた若い衛士の一人だ。奥様とはこの場合マージの事だろう。

「まあ、どうしたと言うの。牛乳の出荷なら止めているわよ」

「牛乳の件ではないんですが…はっ、タイタ殿もここにいたのですね。商人の代表らしい人があなたの事も呼んでいます。何でも、集いの同志が何とか…」


 同志。まさか。


「ようやく来たようですね。我が同志達が」

 これまで控えめにしていたタイタが急にズイッと前に出てニヤリと笑う。


「タ、タイちゃん、まさか、まさかなの…?」

「もちろんそのまさかです。この未曾有の危機に駆け付けぬ訳がないでしょう。今こそ猟犬殿のお力になる時。今、国中の工作員が同じ気持ちでいます!」

「工作員って言っちゃったよ。一応一般人だろ」

 エビーが冷静にツッコむ。

「タイさん、今朝から門で誘導に回ってたのはこれを待ってたんすね」

「その通りだエビー。昨夕の時点でパズータの民に手紙を預けていたからな」

 ふふふと不敵に笑うタイタ。この子、工作員モードになるとキャラ変わるのか…。


「どういう事だ。話が見えないぞ」

 イーリアが口を挟む。

「義母上、僕も最近知ったのですが、深緑の猟犬ファンの集いなる組織が存在しているようで、このタイタはその工作員のようなのです。どうやら彼の仲間? が来たのかと」

 ザコルが渋面で頑張って説明している。何だろう、可愛い。

「会長はうちの坊ちゃん、テイラー伯爵令息サマすよ」

「テイラーの子息はまだ幼かったはずだろう。その子息が会長だと…? そのザコルのファンとやらがどうしたのだ。まさかその商人の団体は…」


 そう、その商人達の正体こそは。


「猟犬ファンクラブメンバー率いる有志のボランティア団体って事だね!? やった! タイちゃん! ありがとうありがとう!」

 思わずタイタの両手を取ってくるくる回る。

「はははミカ殿、おやめください、ははは」

 ザコルの手刀によってベシッと繋いだ手を離される。


「…コホン。サギラ侯爵領側から下流に現れた商人もファンの集いの一員を名乗っていました。頑なに僕と目を合わせてくれませんでしたが…」

 ザコル、ちょっとシュンとしてる。可愛い。


「サギラ侯爵領の港で貿易を営む一家ですね。ご当主殿と息子殿はファンの集い会員ナンバー一桁台の古参です」

「猛者じゃん」

「猛者です。商会の規模、経済力、政治的な発言力も猛者級です!」

 タイタが誇らしげに胸を張る。実に頼もしい仲間がいるものだ。


「ザコル! ファンサですよファンサ! 来てくれたファンの背後取って全員の耳元にようこそって囁きに行きましょう!」

 ザコルの腕をグイグイ引っ張る。くっ、全然動かん!

「どうして背後を…意味が分からないんですが」

「流石はミカ殿。よく解っていらっしゃる。ザコル殿が近づいたら全員隠れるでしょうから。ぜひ背後を取ってやってください」

 どうぞ可愛がってやってください、みたいなノリでタイタが微笑んで頷いている。


「よく分からないが善意で支援を申し出ているのだな? ザコル、ファンサとやらはともかく我々が挨拶に行かねばならぬ相手だ。行くぞ」

 イーリアにも引っ張られ、ザコルが渋々といったていで歩き出した。



つづく

変態が徒党を組んでやってきました。

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