40.揚げ物と缶ビール
この日のためにシーナはかなりの事前準備を整えていた。あちらに準備しておいてほしいものも言ってある。迎えに来たヤハトに荷物を持たせた。
「重っ! なんか液体入ってる?」
「瓶が割れたら今夜のメインが一気に悲しいものになるから、絶対に落としたりぶつけたりしないでね!」
熟成させたものがかなりいい感じなのだ。消費期限は一応短めにして十月いっぱいといった感じなので、フェナのところに半分渡そうと思っている。その代わりに何か貰ってこよう。物々交換を持ちかけたい。そして、フェナが必ずやそれに応じると、シーナは確信していた。
「バルさんは?」
「シーナがメインしか作らないっていうからパスタの準備してる。そうだ、言ってたパスタマシーン? もしよかったらこの冬どこかの工房に作らせたらって、フェナ様が」
スポンサー付き新商品開発か。細かい金属加工だが、いやー、構造ちゃんと考えられるかなぁ?
「うーーん、私が説明できるかわからないし、説明するとなると相手にパスタの存在を知らせることになる」
「パン生地をこんな風に切りたいって言えばいいじゃん」
ヤハト頭いいな。別にシーナの知ってるパスタマシーンが必要なわけではないのだ。
「でも私からは提案したくないなぁ、この間商業ギルド長に何か故郷にあった金になりそうな商品アイデアないか、みたいなことを聞かれたし」
面倒じゃん?
「じゃあバルからの発注にしてもらうのがいいかもな」
「揚げて砂糖まぶしたら美味しそうだって私が言ったからって、それくらいならいってもいいよ。ついでにパン生地の作り方聞きたい!! 分量とか!」
「それなら、ソニアに聞けば教えてくれるし作ってくれるよ。オーブンで焼くとイマイチだって言うから作ってないだけだし」
先日お泊りしたときは朝ご飯はソニアが作ってくれて美味しかったもんね、普通に。
「それにしても、せっかくベーラノガタの肉があるのに、なんで鶏肉も準備させたんだ?」
「どうせ油を大量に使うならねー」
とうとう、異世界から持ってきたプレミアムなビールを二本、開けることにしたのだ。そしてビールと言えばあれである。鶏肉で作るあれを、食べたいのだ!
あと、ポテトフライもしよー。薄切りにするか、棒状にするか悩むところである。お腹はち切れちゃうなぁ〜困っちゃうなぁ〜と、ウキウキだ。
「肉、でかっ」
厨房に来てみると、塊肉がどんと置いてあった。やばっ、何人分作らせるつもりだ?
「どのくらい使う?」
バルが切り分けてくれるらしい。どうしよう。
「どのくらいお腹空かせてます?」
「フェナ様は昼抜きだ」
気合い入りまくりじゃねぇか!
バルもヤハトも結構食べるし、冷めても明日の朝のパンに挟むのもありだから、よしここは大量に作ろう。
それでも、塊肉の十分の一以下にしてもらった。
魔物の肉は不思議なもので、常温でも二週間は食べられるらしい。冷暗所なら一ヶ月は確実に保つ。たぶんこれを教えたら、フェナは何度もリピートするだろう。間違いない。
本日は、トンカツを作ります!!!!
ウスターソースっぽいものを手作りしました! 作ったことなかったけど、作り方を前にネットで見たのだ。砂糖でカラメルを作り、野菜をぶち込む。グツグツ煮込んで瓶にて保存。熟成させるのだ。香辛料がポイントだが、そんなんもうわからない。刺激的な感じになるようにぶち込みまくったらあら不思議、それなりのものになった。分量は一応メモしたので今後も研究あるのみ。香辛料高いから、フェナにタカる。絶対コレは気にいるはずなので、ホイホイ出しそうだ。
「じゃあまずは鶏もも肉の下ごしらえをします」
木のボウルに鶏もも肉を食べやすい大きさに切って、酒、チカの実漬け、塩、熱を通すと柑橘の香りがする塩小々、臭み取りの生姜に似たゼガの汁。それらを入れてよく混ぜて置いておく。
次はいよいよトンカツだ!
肉を食べやすい大きさに切り分ける。ヒレカツな感じの大きさにしておく。トレイに並べて、肉に塩と香辛料を振りかける。胡椒に似た感じのものだ。
肉は少し置いて、その間に衣の準備だ。そこででてくるのがこれ! チャムに無理を言って作ってもらったおろし金だ。
チーズをおろすものはあったのだが、あの硬いパンをゴリゴリとパン粉にするようなものはなかった。しかし、トンカツにはパン粉が必要である。
トレイの上でゴリゴリ言わせながらパンを削る。かなり刺々しいので指を傷つけないように注意する。最後の方はフォークを刺して削った。
塩が馴染んだ肉の筋を切って、衣付けである。
小麦粉、溶いた卵、出来立て生パン粉の順番につけた。
置いておいた鶏もも肉に、もったいないから衣の余った小麦粉を入れて混ぜる。
夕食には少し早いかもしれないがみんなのお腹具合を考えるともう準備を始めていいかもしれない。ソニアがスープとサラダも仕上げてくれていたので、バルにパスタをお願いした。クリームパスタだが、ケラの身が入っている。早速アレンジレシピを楽しんでいるようだ。
鍋に油をたっぷり注いで温度が上がるのを待つ。木箸がないので、パン粉の残りをちょっと入れてみて温まっているのを確認した。そこからはスピード勝負だ。ソニアたちには悪いが、とりあえず四人分を揚げると残りの揚げも頼んで食卓へ向かった。
テーブルの中央には、プレミアムなビールが氷水がたっぷり入ったワインクーラーのようなものに沈んでいた。
「お腹すいた!」
自分で昼を抜いたくせに、ご機嫌斜めになっているフェナ。
「おまたせしました〜、このトンカツには、こちらのソースを掛けて食べてください。鶏肉の唐揚げはそのまま食べて大丈夫ですよ。味はついてますから」
待ち切れないのはフェナだけではないヤハトやバルはもちろん、シーナも久しぶりのトンカツなのだ。
本当はとろっとしたトンカツソースが欲しいところだが、あれの作り方は見たことがない。煮詰めるのか?? まあそんなことはどうでもいい。ナイフとフォークでお上品にいただきますだ。
「うっま!!」
まずはいつものヤハトくんの素直な感想。でも本当に、肉が美味しいのか? めちゃウマである。トンカツソースもかなりいいお味になっていて最高。
「我ながら美味しぃー!!」
バルは無言でもう一つ食べてた。
フェナも目をキラキラさせている。
「唐揚げも食べてくださいね〜」
言って自分でパックリやる。
揚げ焼きはやってきたけど、完全な揚げ物はこちらに来て初めてかもしれない。まず、第一に油をこんなにたっぷり使うのが贅沢なのだ。
そうそう、イモはとりあえずスティックタイプにした。スライサーがないことに気づいたのだ。チャムにまた作ってもらおう。ホクホクおいも美味しい。味付けは普通の塩。
さて、こうなるとヤツの出番である。テーブルの真ん中に鎮座しているあの子の!
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ウスターソース作ったことはないけどレシピを見てて作るのは楽しそうだなぁと眺めていた派です。




