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僕の海馬を君に贈りたい  作者: ハイドランジア&シーク
【第五種「依存症」―僕のカウンセラー―】
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「藪から棒に」

「こちらですよ。では、ごゆっくり」


 扉の前まで案内すると、

 女性はすぐに受付へと踵を返した。


 病院の真っ白な扉は、

 なんとなく緊張してしまう。


 拳で扉を軽く叩くと、中から、

 「どうぞお入りください」と優しげな声が届いた。


 高鳴る鼓動を抑えきれず、

 扉の持ち手を強く握り締め、勢いよく扉を開ける。


「失礼します!」


 白衣を着用した彼女は、可動式の椅子に腰掛け、

 いつか見たあの柔和な表情で、

 こちらを見つめていた。


「やあ、久しぶり佐藤。背が伸びたな」


「え、はいそうです。


 今は、百七十八センチくらいあると思います」


「そうか、私よりも随分大きくなったんだな」


 いや、そうじゃなくて。


「お久しぶりです、由野先生。お元気でしたか?」


「ああ。まあ、それなりにな」


 愛想のない返事に内心がっかりして、

 不意に彼女の背後へ目を遣ると、

 懐かしい植木鉢を見つけた。


「その鉢、あのときの……

 まだ、育ててくださったんですね」


 その植木は、あの頃育てていた樹のように、

 種をいくつも実らせていた。


「当たり前だよ。


 君の心が詰まったものだから、大切にしている。


 それに、君が今、

 手にしているそれも、そうだろう?」


 あぁ、あなたはまたそんなことを言う。


 どうしてそんなに

 優しい言葉を言えるのだろう。


 温かくて、痛い。


「そうです。でもこれは、あなたに返します。


 元々、そういうつもりでしたから。


 あなたに再会するまでだけだと思って、

 あなたにきちんとお返しするために育てたんです」


 会える日を待ちわびながら、

 これを育てていたんだ。


 でもきっと、あなたに僕は必要ない。


 彼女は返事をするのに、

 少しの間をおいてから、

 ゆっくりと口を開いた。


「……君、彼女はいるのか?」


「何ですか、藪から棒に。


 いませんよ、そんなの」


 唐突な彼女の問いかけに、

 僕はそっけなく答えてしまった。


 しかし、

 彼女はそんなことなど気にも留めず、

 さらなる質問を僕に投げかける。


「そうか。


 この後時間があったら

 付き合ってほしいことがあるんだが、

 一緒に来てくれないか?」


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