「藪から棒に」
「こちらですよ。では、ごゆっくり」
扉の前まで案内すると、
女性はすぐに受付へと踵を返した。
病院の真っ白な扉は、
なんとなく緊張してしまう。
拳で扉を軽く叩くと、中から、
「どうぞお入りください」と優しげな声が届いた。
高鳴る鼓動を抑えきれず、
扉の持ち手を強く握り締め、勢いよく扉を開ける。
「失礼します!」
白衣を着用した彼女は、可動式の椅子に腰掛け、
いつか見たあの柔和な表情で、
こちらを見つめていた。
「やあ、久しぶり佐藤。背が伸びたな」
「え、はいそうです。
今は、百七十八センチくらいあると思います」
「そうか、私よりも随分大きくなったんだな」
いや、そうじゃなくて。
「お久しぶりです、由野先生。お元気でしたか?」
「ああ。まあ、それなりにな」
愛想のない返事に内心がっかりして、
不意に彼女の背後へ目を遣ると、
懐かしい植木鉢を見つけた。
「その鉢、あのときの……
まだ、育ててくださったんですね」
その植木は、あの頃育てていた樹のように、
種をいくつも実らせていた。
「当たり前だよ。
君の心が詰まったものだから、大切にしている。
それに、君が今、
手にしているそれも、そうだろう?」
あぁ、あなたはまたそんなことを言う。
どうしてそんなに
優しい言葉を言えるのだろう。
温かくて、痛い。
「そうです。でもこれは、あなたに返します。
元々、そういうつもりでしたから。
あなたに再会するまでだけだと思って、
あなたにきちんとお返しするために育てたんです」
会える日を待ちわびながら、
これを育てていたんだ。
でもきっと、あなたに僕は必要ない。
彼女は返事をするのに、
少しの間をおいてから、
ゆっくりと口を開いた。
「……君、彼女はいるのか?」
「何ですか、藪から棒に。
いませんよ、そんなの」
唐突な彼女の問いかけに、
僕はそっけなく答えてしまった。
しかし、
彼女はそんなことなど気にも留めず、
さらなる質問を僕に投げかける。
「そうか。
この後時間があったら
付き合ってほしいことがあるんだが、
一緒に来てくれないか?」




