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僕の海馬を君に贈りたい  作者: ハイドランジア&シーク
【第五種「依存症」―僕のカウンセラー―】
162/172

僕もすっかり大人になった

 精一杯の作り笑顔で。


 縁さんはふっと笑みを零し、

 物憂げな表情を浮かべ、その言葉を言い放った。


「だから、急で悪いが、バイトにも来なくていい。


 これまで働いてくれた分はきっちり支払う。


 心配しなくていい」


 彼女からそれを告げられるくらいなら、

 僕は自分から手放すよ。


「だったらもう、ここには来ません。


 あなたの夢の邪魔にはなりたくないですから。


 でももし、僕も大人になって、

 縁さんもカウンセラーになったら、

 そのときは育てた鉢植えを持って、

 僕から会いに行ってもいいですか?」


 だからどうか、一つだけ縋らせてほしい。


 僕に夢を見せて。


「ああ、構わないよ。


 そのときは、お互いの鉢植えを見せ合おう」


 会おうと思えば、会えるけれど、

 会ってはいけない。


 でも、永遠に会えないわけではないから、

 大丈夫だよ。


「じゃあそのときまで、さようなら」


「さよなら、昇汰」


 初めて、名前で呼んでくれた。


 嬉しかったけれど、振り返ることはできない。


 今、踵を返したら、

 泣いていることがバレてしまう。


 それに、離れがたくなって、

 またすぐに会いたくなってしまうから。


 僕の心の気休めに、扉を閉める直前、

 「またね」と小さく呟いた。
















 あれから幾年経っただろうか。


 僕もすっかり大人になった。


 調理師専門学校を卒業し、

 今は地元のレストランで修行中で、

 今年でそれももうすぐ二年になる。


 大人になった僕は、

 縁さんが今どうしているかを鏡子おばさんから聞き、

 今まさに彼女の職場へと向かっている最中だ。


 彼女は今、僕の住む地域から少し離れた、

 隣町の心療内科の医院でカウンセラーをしている。


「ここだ」


 山中心療内科。


 出がけに医院へ連絡はしたけれど、

 きちんと会えるだろうか。


 その時間なら丁度空いていると言われたけれど、

 少し不安だ。


 小さく深呼吸をして息を整え、扉を開けた。


 受付に向かい、

 さきほど連絡した旨を伝えると、

 その女性は快く案内してくれた。





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