「それと一つ、」
翌朝。早すぎても迷惑になると思い、
昨日と同じく九時半に店へと足を運んだ。
店の扉の前で一呼吸する。
ひたすら、謝るしかない。
「昨日は、すみませんでしたぁ!」
扉を開けると同時に叫ぶように言った。
「お、おう、なんだ君か。
驚いたよ、何か用か。
少し待ってくれ」
そこにいた彼女は、普通の女性の服を着て、
男装用のウィッグも着用していなかった。
しかも、
彼女は何やら片付けを行っているようだった。
「待たせたね。
今は、カウンターしかないが、
ここにでも座ってくれ。
話は何だ?」
そう言えば、
三セットほどあったテーブルも椅子もなく、
あるのはカウンターに
備え付けられた椅子くらいだった。
「昨日のことを、謝ろうと思って。
酷いことを言って、ごめんなさい。
つい、カッとして
あんなことを言ってしまっただけで、
本心ではないんです。
本当に、すみませんでした」
色々訊きたいことはあったけれど、
まずは誠意を持って謝罪するべきだと思った。
「いや、君に誤解させるような
言い方をしてしまった私も悪かった。
すまない。
それともう一つ、
君に話しておかなければならないことがある」
なんだか嫌な予感がした。
「この店を畳むことにしたよ」
「どうしてですか?」
「もう一度、
カウンセラーを目指すことにしたんだ。
専門学校に通って勉強して、
人の苦しみを和らげたり、
癒すことのできる立派なカウンセラーになりたい。
そのために、店を畳むよ」
夢を語る彼女の眼差しは透徹で、輝いて見えた。
止めることなんてできない。
でも、理由くらいなら。
「どうして、
再びカウンセラーを目指すことにしたんですか?」
「昨日、透夜の手紙を読んで、
鏡子さんの話を聴いて思ったんだ。
もうそろそろ、自分を許してやろうと。
それに、こんな少数制ではなく、
公の場でもっと多くの人を救いたい。
だから、カウンセラーになりたいんだ」
やっぱり縁さんは澄んだ目をして、
自分の夢を語った。
それなら僕に言えることは……。
「おめでとう、ございます。
応援してます、縁さんならなれますよ。
きっと大丈夫です」




