「――のせいじゃない」
『縁へ
これを君が読む頃に、
僕はきっと浮き世にはいないでしょう。
手紙を遺すべきかどうか悩みましたが、
遺すことに決めました。
縁が僕の死に責任を
感じてほしくなかったからです。
僕が死ぬ理由は、大腸癌という病か、
事件や事故に巻き込まれたせいだと思います。
だから決して、縁のせいじゃない。
心の種は育ててくれていますか。
実は食べてくれましたか。
信じられないと思いますが、
それは夢の中で
死神と名乗る者にもらったものです。
願いを叶える代わりに寿命をもらう、
と言われましたが、
多分このことだったのだと思います。
死神と名乗る彼が
与えてくれた奇跡だと思いました。
日記を見ていれば分かるかと思いますが、
それは、君に贈った僕の海馬です。
僕の海馬を君に贈りたかったんです。
初めは、僕の記憶の全てを伝えたかった。
でも、今はもう
僕の気持ちをただ知ってくれたら、
それで本望です。
それから、僕が死んだら、僕のことは気にせず、
恋愛を楽しんでください。
僕に義理立てするよりも、
自分の幸せを優先してください。
僕は、縁が笑って、
幸せでいられることを何よりも望みます。
たった一つの今際の願いです。
どうか、幸せになってください。
透夜より』
縁さんは肩を震わせて涙を堪えていたが、
ポロリ、一滴の涙が流れた。
「それとね、
二人に話しておきたいことがあるの。
実はね、お葬式が終わった後に、
小学生くらいの男の子と
その母親が線香を上げに来てくれたの。
誰かと思ったら、
あの子が助けた男の子だったの。
あの子は、
赤信号なのにいきなり道路に飛び込んだから、
自殺だと思っていたわ。
でもね、本当は、
信号が変わるまでに渡りきれなかった
男の子を助けようとして、
それに気づかなかった
トラックにはねられてしまったの。
男の子は、
あの子が道路から突き飛ばしたお陰で、
擦り傷で済んだらしいわ。
怒りや憎しみよりも、ほっとしたの。
あの子は自殺をしたんじゃないって知れて、
すごく嬉しかったから。
救われたような気持ちになったわ。
だから、縁ちゃんのせいじゃないのよ」




