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僕の海馬を君に贈りたい  作者: ハイドランジア&シーク
【第五種「依存症」―僕のカウンセラー―】
151/172

「家に来てくれたのは八年ぶり」

「押すぞ」


 同意というより、確認の合図のようだった。

 

 僕が頷くと、

 彼女は安堵したように目元を和らげ、

 ワンピースの裾を翻し、それに指を伸ばした。


 すると、ピンポーンと軽快な音が流れ、

 「はーい」と鏡子おばさんの声が聞こえる。


 ガチャリと内側から扉が開かれ、

 久しぶりに彼女の姿を目にした。


 鏡子おばさんはとうにいと

 顔立ちや雰囲気がよく似ている。


 だから、彼を思い出してしまって、

 今にも涙しそうになった。


 だが、ここで泣くわけにはいかない。


 まだ、彼女に知られるわけにはいかないんだ。


 僕の口から正体を明かすまでは。


 泣き出しそうなのをぐっと堪えて、

 ふわりと、作り笑いを浮かべてみた。


 すると、鏡子おばさんは

 にんまりと柔い表情で笑いかけてくれる。


 僕の来訪に驚いた様子もなく。


「あら、いらっしゃい。


 こうして会うのは十年ぶりくらいかしらね、

 縁ちゃん。


 二人とも、どうぞ上がっていって。


 見せたいものがあるの」


 促されるままに僕らは浪川家に上がらせてもらった。


 そうして、鏡子おばさんは

 僕らを家に上げるとすぐにリビングではなく、

 二階にある、とうにいの部屋に案内してくれた。


「あの子の部屋だったんだけど、

 整理しなくちゃいけないと思ってね、片付けたの」


 鏡子おばさんの言う通り、

 部屋はすっかり様変わりしていて、

 綺麗に片付けられていた。


 ただ家具だけがそこに

 浮かんでるかのように存在している。


 彼の匂いのなくなった部屋は無機質で、

 彼にもらった温もりが、

 もうどこにもないのだと実感させられた。


 僕が静かに感傷に浸っていると、

 不意に、鏡子おばさんがくるりと振り返る。


 そして、彼女はまるで

 僕の心を見透かすかのように語りかけてきた。


「それと、昇汰ちゃんはお盆以来ね」


 ふと、気がついた頃にはもう手遅れで。


「でも、家に来てくれたのは八年ぶりだわ」


 やめて。それ以上は、言わないで……。


「あの子が昇汰ちゃんをすごく可愛がっていたし、

 昇汰ちゃんもあの子のことを慕っていたようだから、

 余計に来づらくなっちゃったのよね」






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