「一種のけじめ」
とうとう土曜日がやってきた。
その日は休日だというにも関わらず、
七時頃に目が覚めてしまった。
寧ろ、
あまり熟睡できなかったというべきだろうか。
不安で睡眠は浅かったものの、
身体というものは実に素直で、
起床してすぐに空腹を感じた。
授業の予習や課題なんかは
平日に全て終えてしまっていて、
特にすることもなかった僕は
少し手の込んだ朝食をつくることにした。
ご飯が美味しく食べられるようなものが
いいと和食をつくってみた。
炊き立ての白米と、
昔懐かしのみたらし餡がたまらない、
いももちと、薄味の玉子焼きと、
萌やしとニラの炒め物だ。
出来上がった頃には、
母と父がやってきて、
僕が食べ終わる頃にはなずも起きてきた。
みんなして、
「朝食つくるなんて珍しい」と口を揃えて驚いていた。
それに評価も上々のものだった。
いつの間に、
料理できるようになったのかと訊かれたが、
彼女の元で働いているうちに、だろう。
それから、スマホのアプリで漫画を読むなどして、
暇を潰した。
電子コミックは多種多様なうえ、
サクッと読めてしまうからこそ、暇潰しに丁度いい。
シリーズものなんかを読むと、
時間なんてあっという間に過ぎた。
家から店までの所要時間は
自転車で十数分といったところで、
待ち合わせの十分前には優にたどり着くことができた。
店の前の扉に立つと、
僕が扉に手をかけぬ間に、内側から扉が開かれた。
「おはよう。
よく来てくれたね、助かるよ」
穏やかな声音で僕を迎え入れてくれたその人は、
紛れもなく一人の女性の姿をしていた。
「お、おはようございます」
予想していなかった彼女の変化に僕は目を丸くして、
その姿を見据えてしまう。
それに気づいた彼女は弁明するように、
理由を教えてくれる。
「ああ、これはね、一種のけじめだよ。
あの格好で鏡子さんと透夜に会うのは、
逃げのような気がしてね。
違和感があるか?」
不安そうに僕の目を見て尋ねる彼女を見て、
たとえそうだとしても
そんなことは口に出せないと思った。
ただでさえ、
不安な彼女をこれ以上不安がらせる必要はない。
「いえ、縁さんは
そのままの格好が一番素敵だと思います」
それは皮肉でも何でもなく、
ただの本心からの言葉だった。




