いくつの嘘を重ねたら……
何て返事をすればいいか分からなかった。
僕だって、鏡子おばさんの家に行くのは辛い。
彼の死を知らしめられることもだけれど、
本当のことを告げなければ
いけないことが苦しくて堪らない。
だから僕は返事の代わりに、
彼女の身体をキュッと抱き寄せた。
締め付けないように、けれど、
互いの温もりが伝わる程度に
触れていたかったから。
そうすれば、
少しでも彼女の不安が
取り除けるような気がしたんだ。
これから彼女を傷つけるのは
他でもない自分なのにという矛盾を抱えながら、
彼女が「もういい」と口にするまで、
その手を離しはしなかった。
その後、彼女から手を離し、妙な空気が流れた。
沈黙に包まれ、
どうしようかと頭を悩ませていると、
彼女の方から話し始めた。
「この後、よければ、
また一緒に夕食を食べないか?」
という彼女の誘いに対し、僕は断りの旨を伝える。
「すみません、
今日は早く帰らなければいけないので、
このまま帰らせてもらいますね」
「そうか、分かった。
それじゃあ、気をつけて。
また土曜日に、九時半にここへ来てくれ」
「はい。ではまた土曜日に」
それだけ言って、荷物を手に取ると、
僕は素早い足取りで店を後にした。
嘘を吐いた。
早く帰らなければいけない用事なんてない。
ただ、今はどうしても彼女といたくなかった。
土曜日には正体を明かさねばならないのに、
いつものように楽しい時は過ごせない。
きっと僕は取り繕えないだろうから、
それを防ぐために嘘を重ねた。
一体僕はいくつの嘘を重ねたら気が済むんだ。




