呼吸の音さえも響かせられないほどに。
ぱぁあっと輝かしい笑顔をこちらに向ける彼女、
僕には少し眩しすぎた。
目が眩むのを隠したくて、
僕は具体的な日程を決めよう
というこじつけを種に便宜を図った。
「お邪魔するのはいつにしますか?
店も臨時休業にしないといけませんし……」
「ああ、そうだな。
まずは、先方に連絡を取ろうと思う。
いきなり押し掛けるのも、申し訳ないし、
不在の場合がないわけでもないからな」
縁さんは少し眉を顰めて、
少しだけ言葉を濁すような物言いをしていた。
ここで引いてしまっては
せっかくの決意が水の泡だ。
なんとかして、奮起させなくては。
「そうですね。
じゃあ、今、電話しましょう!
善は急げですし、
後回しにすると尻込みしちゃいますよ」
それらしい言葉を並べてはみたが、
彼女の心には響いただろうか。
「ああ、そうするよ。
一人でいるときよりも、
君がいるときの方が心強いからな」
すると彼女は、胸の辺りに両手を重ね、
深呼吸をし始めた。
不安を取り除き、勇気がほしいからだろう。
彼女は引き締まった顔付きで、受話器に手をかけた。
モスキトーンのような音を鳴らすと、
少し低めの呼び出し音が静かな店内に鳴り響く。
幾度となく、
繰り返されるそれは時間が止まっている
と錯覚させるくらいに螺旋のようだ。
たった数十秒の間さえも、
静止した一時間に思われて、息が詰まる。
呼吸の音さえも響かせられないほどに。
永遠に続くかのように思えた時間は、
プツッ、という音と共に終わりを告げる。




