それでも憎くて、赦せないのに、どうして僕は――
「店を建てる前から、育てていたんですよね。
だったら、
僕よりも縁さんの気持ちで溢れています。
何なら、今から実をつけるまでの間だけでも、
縁さんが世話をしてください。
『浪川透夜』のことを大事に思うなら、
どうか向き合ってください。
お願いします!」
どうして頭を下げるまでして、
僕は懇願しているのだろう。
ああ、きっととうにいの想いを
聴かされてきたからなんだろうな、
はにかみながらも
愛おしそうに話してくれたその声も、
顔も鮮明に思い出せるから。
それでも憎くて、赦せないのに、
どうして僕は
あなたを最後まで嫌いになりきれないんだろうか。
「ああ、そうするよ。
君にそこまで説教されてまで
逃げるような真似はしない。
ありがとう、背中を押してくれて」
ひどく穏やかな眼差しを僕に向けて。
そんな格好いいものではないのに、
ただ積年の思いを静かに
ぶつけているのに過ぎないから、
感謝の言葉なんていらなかった。
一週間と経たないうちに、花は実をつけた。
それは美しいルビー色をした、さくらんぼだった。
彼女が意を決して果実に手を伸ばすと、
それは眩い光を放ち、
プロジェクターのように
あの日の彼の記憶を映し出した。
彼はどこかに向かう途中で
いきなり道路に飛び出し、車に轢かれて、
意識が朦朧とする中、掠れた声で呟いていた。
『ゆ、かり、の――』
それが最期の言葉だった。
その後彼はゆっくりと瞼を閉じ、
二度と開くことはなく、その映像は終わってしまった。
縁さんは一筋の涙を流すと、
たがが外れたように止めどなく涙を溢れさせては、
頬に伝わせ、ぼたぼたと滴を垂らし続けた。




