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「名前」
さきほどの「ミントの種」は昇太が高校一年生の
梅雨頃のお話ですが、
時系列は戻りまして
高校二年生の夏になります。
あの日以来、彼女との間に小さな溝を生んでしまった僕は、
距離感の取り方を測りかねていた。
だからそれは、一種の意志疎通の手段として、
訊いてみたにすぎない質問だった。
「今さらなんですが、
由野さんの名前って何て言うんですか。
そう言えば、知らなかったと思いまして」
彼女は目をきょとん、とさせて僕の顔を見つめた。
どうして急にそんなことを
訊いてくるのかと思っているのだろうか。
「縁だ。私の名前は、縁だよ」
僕は束の間、意識が朦朧としてしまい、
すぐには反応できなかった。
「……綺麗な名前ですね。
あの、これから縁さんって呼んでもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
「由野縁、って妙に文学的な氏名ですよね。
人と人とを結ぶ、縁さんにぴったりの名前です!」
にっこりと笑ってみせたつもりだったが、
上手く笑えていただろうか。




