朽ち果てた花にいつまでも愛情を注ぎ続けるように、
彼は床に崩れ落ちた。
頭を抱えて、
何かをうわ言をぼやきながら震えている。
思い当たる節があったのかもしれない。
だけど、それでも、
大切な婚約者を失った遺族に変わりはないのだ。
「……あの、田所さん。
それでもお姉さんは――
さゆりさんは、
田所さんを恨んではいなかったんだと思います。
彼女は生前よく言っていました。
『貴志さんは私にはもったいない人なのよ』って。
それに恨んでいるなら、
あんな遺言残したりはしないでしょう。
お姉さんはそんな人じゃない。
それから、僕へのレシピだって……
恨んでいる人に託したりはしないはずです。
あなたを信用しているからこそ
店長さんに預けるでもなく、
そのままにしておいたんじゃないですか?」
「佐藤は甘いな」
全く、と言わんばかりに彼女は微苦笑すると、
僕と田所さんを置き去りにして
部屋を出て行ってしまった。
「あぁ、さゆり。
さゆり、どうして……
俺と幸せになってくれるんじゃなかったのか?」
お姉さんを想って床に伏す彼はあまりに悲愴で、
孤独だった。
誰もいない空間で、
朽ち果てた花にいつまでも愛情を注ぎ続けるように、
虚しい。
だけど声はかけられなかった。
僕から慰みの言葉をかけられたところで、
怒りが増幅するだけだろうから。
「彼女があなたに遺したものがもう一つあるぞ。これだ」
彼はおもむろに顔を上げると、
由野さんが部屋の外から取ってきたそれを受け取った。
鉢植えだった。
枯れた葉の中に一枚だけ、
緑色に色づいた葉が残っている。
「ミントの鉢植えだ。
佐藤宛のレシピにミントの葉は記されていなかった。
だとするなら、あなたしかいないと思ってな。
知っているか?
ミントはミントティーとして飲むことができるんだ。
それの効能にはね、健胃作用や心身のリラックス、
安眠効果などがあるとされている。
あなたは少々嫉妬深いきらいがあるようだし、
結婚前ともなれば無理をしてでも
婚約者にいいところを見せようとしたのだろう。
そんなあなたを見て、
彼女は心を痛めたのかもしれない」
補足説明を受けた田所さんは、
一枚だけになったミントの鉢植えを
大事そうに抱え込み、床にへたり込んだ。
「もし、あなたがその鉢植えを
再生させたいというのなら手を貸そう。
これをその鉢植えに埋めて、水をやるといい。
ミントはあなたの心とともに再生するだろう」
その後、落ち着いた彼から「すまなかった」という
謝罪とともにレシピノートが、僕に手渡された。




