当たり前の幸福
その中にはお姉さんが甘い物が苦手な僕の為に
試行錯誤した跡が残されていた。
何か月もかかって綴られたからか、
途中からそれは日記のようになっていて、
彼が渡したがらないのも分かる気がした。
終わりの方にはミントクレープのレシピが記されていた。
その結果分かったのは、
本当に僕はお姉さんが好きだったということ。
そして――、
「……っぱり、やっぱりそうなのか!?
さゆりはこいつのこと……」
「やはり、そうだったか」
彼がいきり立つのは想定内だった
とでも言わんばかりに、彼女は溜息を吐いていた。
「あなたは佐藤宛のレシピを見て、嫉妬したのだろう?
――自分への遺書よりも文字量が多いことに。
そして独占欲と劣等感が生じ、レシピを隠した」
「それがどうしたんです。
俺がやったのはノートを隠したことだけだ。
殺しちゃいない」
飄々とそんなことを言ってのける彼に寒気を覚えた。
この人は本当にお姉さんを大切にできていたんだろうか。
「そうだな、あなたは殺してはいない。
彼女は自分の意思で死を選んだんだ。
当たり前の幸福が辛かったから」
――当たり前の幸福?
「……どういうことです」
田所さんの眉間に皺が寄る。
理解しがたいとでも言いたげだ。
「彼女はね、怖かったんだよ。
幸せでいることが怖かったんだ」
「そ、そんなの、おかしいだろ……
人は幸せになるために生きてるんだろ?」
そうでなければ困ると、
彼は縋るような視線を由野さんに送ったが、
彼女はそれを拒むように先を続ける。
「幸せにはそれ相応の責任と不幸が付き纏う。
〝こんなに恵まれているのに、そんな不幸面するな〟
〝お前は幸せ者だ〟
幸福者の宿命だよ。
幸せであり続けるには
その分だけ不幸が伴うというのに、
その辺りを理解していない者たちが彼女に
〝幸せであること〟を強要したんだろうね」




