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「あなた宛ではない手紙が遺されていたはずだ」
「あなたは本当にそれでいいのか?」
「……誰ですか?」
インターホン越しに田所さんの訝しげな声が響き、
僕の胃がキリキリと痛み始める。
「そんなことはどうでもいい。
故人が遺したものの中に、
あなた宛ではない手紙が遺されていたはずだ。
それをどうした」
インターホンからの応答はない。
「そちらがそういう対応をするなら、
こちら側にも考えがある。
あなたが行った行為は証拠品隠蔽という罪に当たる。
これを警察へ伝えれば、
他殺を自殺に偽装したのだろう
という疑いを向けられるだろうね」
「……それがどうしたっていうんですか。
さゆりのことはもうとっくに終わったことなんです、
今さら警察が取り合ってくれるわけもないでしょう」
「怖いものはないと言いたいわけか。
……しかし、世間はどうかな。
風化したとは言え、
遺品を隠し持っていたとあれば、邪推するだろう。
人は噂を好む生き物だからね。
人の噂も七十五日というけれど、
それだけあれば勤め先や
あなたのご両親に伝わることもあるだろう。
――それに、あなたも彼女がどうして
自ら命を絶ったのか知りたいのではないか?」
暫くの間、
沈黙が流れてインターホンとの接続が切れかかった頃、
「分かりました」という声とともに正面玄関の戸が開かれた。




