その言葉は冷酷無比だった。
店長である由野さんは
店の表にあるプレートを休業中に変更し、
またカウンター内へと戻ってくる。
由野さんはカウンターに両肘をついて、
組んだ手に顎を乗せた。
「二、三尋ねたいことがある。
まず初めに、どんな死に方をしたんだ?」
「首吊り、です。
ドアノブにロープを括り付け、
ドアにもたれかかるようにして亡くなっていたと聞きました」
僕はその光景を直に目撃したわけではないけれど、
お姉さんの婚約者から聞かされたときは
彼の悲愴な表情から惨さが伝わってきた。
「……そうか。
では次に、遺書らしきものは見つかったのか?」
「はい、手書きの手紙が一通見つかったそうです。
婚約者への謝罪が綴られていたとか」
「そこにはなんと?」
由野さんは傾聴していた。
事象の中に散らばっている
答えを見つけ出そうと必死なのだ。
僕もそんな風になれれば良かった。
だけど、お姉さんの死を受け入れるには
まだ僕は子どもすぎて、
解明するなんて考えもしなかった。
「【貴志、ごめんね】
その二言だけだったと聞きました」
たったそれだけの遺書で
命を絶とうとするお姉さんの気持ちが
ちっとも分からなかった。
生前お姉さんはあんなにも
楽しそうに話してもくれたのに、
彼女が死にたいまでに絶望していた理由に
気付けなかった自分が、悔しくてしょうがなかった。
もし気付いてあげられたなら、
死んでしまうことはなかったかもしれないのにって。
「……なあ、佐藤」
僕のそんな気持ちが表に出ていたのか、
由野さんは悩ましげに眉を寄せて、
壊れ物でも見るかのような目で僕を見つめた。
「現実において〝もしも〟なんて存在しないんだ。
あるのは、『あのとき、ああしていたら』という
生者の不遜な妄想だけだよ。
死者は何も望まない。
なぜなら、脳や心というものとは
既に切り離されているのだからね。
望んでいたとしても、
彼等の望みは永久に叶うことはない。
悔やむだけ、時間の無駄なんだよ」
この店で精神病に悩む人たちを
救ってきた人の言葉とはとても思えなかった。
誰よりも人の痛みに敏感で、胸を痛ませるのに。
その言葉は冷酷無比だった。




