「受けた分くらいの恩は返せるだろうな」
☂☂☂☂
「――という出逢いがあって、
僕はお姉さんのクレープ屋に
ちょくちょく通うようになったんです」
「ほう。
苦手な甘いものを提供する店に通いだしたと?
佐藤はクレープ屋のお姉さんとやらに一目惚れしたのか」
切れ長の目が愉しそうに僕を眺める。
詮索的で、嫌らしい目付きだ。
「そ、そんなものじゃないですよ。
僕はただ、お姉さんに恩返しがしたくて――」
「中高生の小遣いなど、
せいぜい五千円くらいだろう。
クレープの単価は安くて三百円強、
高くて六百円強。
ある程度通い詰めたとしても
学生の小遣いと甘いものが苦手ということから鑑みて、
週一、二回程度だろうな。
まあ、月四~六回ぐらいだろう。
安く見積もって千三百円程度。
高くても五千円程度だろう。
これぐらいの売り上げで
経営の助けになるとは思えないが、
まあ確かに受けた分くらいの恩は返せるだろうな」
由野さんは腕組みをしながら、ふんと鼻を鳴らす。
その仕草は物腰柔らかな由野さんらしくないと思った。
「嫌な言い方しますね」
「事実だろう。
それにだ、
甘いものが苦手な男子中学生が
我慢して食べている様を
見せつけられるというのはあまり嬉しくはないだろうさ」
そこまで言われてようやく僕は気付いた。
お姉さんに余計な苦労を
かけさせていたかもしれないということに。
「……クレープ屋に通っていたとき、
お姉さんに言われました。
『甘いものが苦手な君でも
美味しく食べられるクレープ作ってあげるから、
期待して待っててね』って。
無理、させてたんですね……」
「べ、別に私はそういう意味で言ったのでは……
君があまり素直ではないから、
本音を吐かせようとしただけだ。
そう落ち込むな。
売り上げには影響を与えずとも、
常連客がいるということで
彼女の心は救われていたかもしれないだろう」
「救われる」その言葉に胸が疼きだした。
救われるって、なんだ。癒やされるってこと?
「そう、かもですね……」
――釈然としない。
そのことが顔に出ていたのか、
はたまた適当に相槌を打ったのがバレたのか、
由野さんは励ましを続けた。




