「この雨だもの」
彼女はキッチンカーの中に引っ込んだが、
すぐにくるりと振り返って、
カウンターに両肘をつくとそこに顎を乗せた。
「ねえ、可愛い濡れねずみさん」
なんですかと言葉を挟むのも余計に思えて、
僕はただ、続きを待ってみた。
「こんなところにクレープを置いておいたら
お腹を空かせたねずみさんに食べられちゃうわね。
この雨だもの」
と、今作ったばかりのクレープを
目の前のカウンターに置いた。
「それに……
きっと、身体を冷やしているに違いないわ。
だからね、
このぬくぬくのミルクティーも
飲み干されちゃうと思うの」
コト、と湯気の立つ紙コップも隣に置かれていく。
ふわりと、独特なシナモンの香りが舞い上がる。
「でもね、
私はそれぐらいで怒ったりはしないわ。
だってねずみさんのすることだもの。
怒るなんて馬鹿馬鹿しいでしょ?」
「そうですね」
僕は吹き出しそうになるのをグッと堪えて、
笑みを作った。
踵を返して中へ戻っていった
お姉さんの耳はほんのり赤く色づいていた。
なんて可愛い人なんだ。
もちろんそんなことはおくびにも出せなくて。
クレープとミルクティーの紙コップを手に、
僕は椅子に腰かける。
「いただきます」
これほど、
この言葉の意味に感じ入るときはないだろう。
はむっと一口頬張ると……
「あまっっっ」
慌ててミルクティーを口に流し込んだが、
それも相当な砂糖の量だったようで
口の中は甘茶を飲んだ後のように甘ったるくなる。
だけど、僅かに香る香辛料の刺激が程よかった。




