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「人を殺してしまった」
「ああ、どうしてかだったね。
それはね、私が間接的だが、
人を殺してしまったことがあるからだよ」
僕は怖くなって、喉から声を失った。
嘘ですよね、冗談だと言ってくださいよ。
そんな僕の心の声を辿り、
追い詰めるように、彼女はなおも続けた。
「冗談じゃないよ」
最後に聞いたその言葉がやけに涙を誘って、
僕はいつしか泣いていたんだ。
その涙を掬う手は行方しれず。
ただ、
触れられない壁が生まれてしまうばかりだった。
――どうして慰めてくれないんですか。
涙を掬ってくれませんか、励ましてくれませんか。
いつもの堂々した態度は何処に消えてしまったんですか。
そんな僕の心の声はただの独白に終わり、
初めて彼女と僕の間にある壁を体感することになった。
それは彼女と出逢って一年の夏。




