****「一年に一度のその日を」****
二月十三日、
僕にとってそれはバレンタインの前日なんかではなく、
きっと一生忘れられない一日だ。
だから珍しく、
この日だけは僕からバイトの休みを申し出たのだけれど、
「いや、その必要はない。
その日は、店を休みにしているからな」
「そうですか、ありがとうございます」
「それにしても珍しいな、
君がバイトを休みたいだなんて。
何か大事な用でもあるのか……
いや、何でもない、気にしないでくれ」
彼女はそうして、
自ら出した問いを封じ込めてしまった。
まあ、そのまま訊かれたとしても、
答えられはしなかっただろう。
彼女も僕のそんな心情を悟ったのか、若しくは、
それを自分に返されると思ったからだろうか。
店を休みにする理由を敢えて話さないあたり、
知られたくない事情があると窺える。
だから、お互い今日、
二月十三日には不干渉でいよう。
その他を歩み寄っても、
これだけは隠していたいんだ。
僕は当日、ある人に会いに行っていた。
――毎年、この日しかあなたとは会えない。
この日くらいしか、
僕はあなたに会いに行く勇気が出ません。
こんな臆病な僕を、どうか笑ってやってください。
その代わり、
あなたのことは一生忘れないつもりです。
この先の未来もきっと、
あなたを忘れることはできないでしょう。
あなたは僕にとって、それくらい大切な人でした。
「また、来年会いに来ますね」
二月十三日はあなたに会いに行く日。
あなたにもらった優しさを胸に、
明日も生きていきます。




