紅く熟れた「苺」
主な学校行事を終えた十月の十二日、
今日も元気に夕からバイトである。
特にこの時期は、食欲の秋に当たる。
秋の味覚が勢ぞろい、
栗、梨、柿、秋刀魚、鰯などがそれだ。
今日の上がりは九時頃だし、
まかないをいただけると期待している。
何なら、切望しているほどだ。
いつものように、
樹と種の世話を済ませ、掃除、後片付け、洗い物などを
済ませているうちにいつしか、七時を回っていた。
今日はあまり客の入りがよくなくて、
少しばかりやる気を失いかけていたら、
不意に扉がカラリと音を立てて、開かれたんだ。
僕の視界には見覚えのある人影が飛び込んできた。
「こんにちは、お久しぶりです。
いらっしゃいませ、一条さん」
会いたいと思っていたせいか、
どの順序で話せばいいか分からなくなる。
そんな僕を穏やかな眼差しで見てくれる彼女の手には、
あの日の鉢植えを入れた袋がぶら下げられていた。
「いらっしゃいませ、一条さん。
お好きな席にどうぞ、お話はそれからにしましょう」
嬉しさのあまり接客を忘れる僕に取って代わって、
大人な対応をとった。
彼女は定着しつつあるカウンターに腰掛けて、
その鉢植えを由野さんに差し出した。
彼女に水を差し出すついでに、鉢植えを確認してみると、
実は紅く熟れた「苺」だった。
苺は一粒だけ実っているが、花はいくつか蕾をつけている。
これから咲く予定の花はたくさんありそうだ。
それから彼女の結果報告が始まる。
「彼に、摂食障害のことや、
それの原因と思われる
過去のトラウマについて語り尽くしました。
それこそ、私怨さえも交えて。
それでも彼はそのことを知ったうえで、
私のことが好きだと言ってくれたんです。
『それら全部まとめて君だから、俺は過去を経験してきた、
今ここにいる君が好きだよ。
全部まとめて受け入れて、心身ともに支えたい。
できるなら、ずっと傍に居たいと思ってる』
そう言ってくれて。
これ以上の言葉はないと思いました。
同時にこれ以上望むこともないと感じました。
こんなに世話のかかる面倒な自分を必要としてくれて、
好きだと言ってくれて、ずっと傍に居たいって……
その言葉だけで私は幸せでした。
この手を掴まずして、
この先私は幸せを得ることはできないでしょうね。
私にとって、彼は最高の相手です。
勿論、私はその答えを受け入れました。
この人となら、私も精一杯頑張ることができて、
いつまでも寄り添える夫婦になれるような気がしましたから」
告白を受けたことは分かったが、
それは結婚の方なのか
交際についてなのか明確には分からない。
意外とせっかちな由野さんはそれを明確にしようと彼女を急かす。




