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僕の海馬を君に贈りたい  作者: ハイドランジア&シーク
【第三種「受容の種」―自分を受け入れる―】
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小さなサプライズ

 翌日、昼からバイト。


 五日ぶりの由野さん。


「由野さん」


「何だ」


 彼女はこちらを向こうとせず、

 僕に背を向けたまま返事をした。


 そんな態度とられたら、

 余計にからかいたくなってしまうのに。


「由野さん、昨日は忙しい中、

 文化祭に来てくれてありがとうございます」


 身体をビクン、と震わせるも、

 一向にこちらを向く気配はない。


「贅沢甘味セット、美味しかったですか?」


 そっぽ向いたまま、彼女はポツリ呟いた。


「まあまあだな」


「ありがとうございます」


 心からの笑みでそっと彼女の背中を見据えながら、

 僕は今日も今日とて心の樹と種の世話をする。


 本当に恥ずかしがり屋な人だ、

 けれど、それが可愛いと思えてしまうあたり、

 僕はもうすっかり彼女に懐柔されているんだろう。



 それから二日後、今度は体育大会が開幕した。


 僕はあまり足が速い男子というわけでもないので、

 二人三脚に出場した。


 クラス別対抗にもなっているので、

 相手は同じクラスの宮田だった。


 宮田は僕よりも身長が十センチ近く大きいため、

 不釣り合いに思えたが、

 半ば彼が僕を引っ張っていく形で足を進められ、

 見事一位になることができたんだ。


 コンパクトな脚は小刻みに素早く走るのに、

 功を奏したんだろう。


 最終結果、

 僕らのクラスが属する紅組は敗退してしまったが、

 クラス単位では十九クラス中、

 五位と中々の好成績を収めることができた。


 この調子だと、

 今週末のどちらかは打ち上げを開催するだろう。


 辻川先生も上機嫌で、

 HR中にこっそりとみんなに

 ジュースとプチシュークリームを振る舞ってくれた。


「他のクラスには内緒だぞ?」


 と、人差し指を鼻の前に押し当てて、ウィンクする。


 茶目っ気溢れるその言動は

 彼のように人望がある先生でないと、

 どん引きされるか、教室中の空気が凍てつく。


 イケメンではないが、イケメン風で気さくな人の方が、

 却って嫌みがなく、人から好かれるのかもしれないな。


「先生、ありがとー!」


「先生大好き!」


 教室のそこら中から感謝の言葉なんかが飛び交う。


「こんなときばかりそんなこと言って、現金だな」


 そう言いながらも、彼の眼差しは穏やかで、

 口角は緩く上がっていた。


 いやまあ、こんなときだからこそ、

 軽口で好きだとか言えるんだろうけれども。


 本気さを滲み出すような「好き」は口にはできない、

 色々な事情が絡んでくるからだ。


 何はともあれ、

 こういう小さなサプライズは嬉しい。


 特に、食べ物は値段云々ではなく、胸にしっかり残る。


 お腹が空いているときに食べ物を恵んでもらうと、

 とてつもなく大きな恩を覚えるから。


「いただきます。ん、んまい」


 お腹と心に染みた。辻川先生に感謝だ。





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