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俺の着地点が最悪すぎて困る件

「……むむむ。


 なにやら、シリアスの波動を感じるな………」


 野分は、そう言いながら水平に伸ばした指を目の上に当て、付近を警戒するようにゆっくりと周囲を見渡していた。


 その足元から……ルビンスキーが目をナルトのようにくるくるさせながら、野分に声をかける。


「お……お……お師匠ひひょう……ふぁ……ありがとうございますふぁいふぁほごひゃいまひゅ


「……うむ。


 何を言っているのかはわからんが……。


 だいたい、うむ。


 危なかったな……うまく風の魔法を使って、(あるじ)の服の裾を捕まえられて良かった。


 とっさに駆け上がって主のポケットの中に飛び込んだから良かったものの、下手をすれば……我らはな。


 爆竹+田舎の小学生+カエル→?という化学式を身をもって体験するところだったぞ?」


「??????????」


 ルビンスキーの疑問符を全く無視しながら、スキル『比翼連理』にて地球の知識を披露する野分。


 ただしそれは……田舎あるある、という類の知識。


 ……どんどん地球の知識を吸収する野分であった。


 それを教養と言って良いかどうかは別として。


 と……その時。


 二人のいるポケット……その持ち主が、咆哮を上げていた。


「痛ってええええええええ!!!


 爆発……じゃなかった。


 落下オチなんて最低じゃねえかああああ!!」


 身をよじって背中側の打撲部分を地面から離しながら悶絶するワダヤマヒロシ。


 二十数メートル……ちょっとしたビルの高さからの転落であるが、ワダヤマヒロシからすれば、二メートルちょいの高さからの落下。


 とは言え……とっさに後頭部をかばったものの、人の身長ほどの高さからの落下である。


 『アナ○ーなら死んでた』という言葉が幸いにも成立した、下手をすれば死んでもおかしくないレベルの落下であった。


「……大げさじゃな、『お前さま』。


 お前さまは、オットコノコではないか。 静かにせい」


「……なんで尼崎人みたいに言うんだよ……くふー!!」


 苦痛を堪えながらも健気に突っ込むのは、ワダヤマヒロシらしいと言えた。


 そのまま数分……やがてそのワダヤマヒロシの表情から、苦悶の色が消えた。


 痛覚の第一波、激痛がようやく収まったらしかった。


 しばらく第二波の疼痛が彼を悩ませるのだろうが……まあ、普通に会話できるほどには落ち着いたようだ。


 ワダヤマヒロシは、続ける。


「……あーくそ。 えらい目に遇った。


 ここはどこ……って? 『お前さま』?


 野分、それって……」


 問い返しながら……ふいに野分が自分を、今までとは違う呼び方で呼んだことに気付いて……ワダヤマヒロシは無意識に問い返していた。


 が。


 それは……途中で停止することになった。


「…ん? まぁ……気にするな、お前さまよ。


 昨日からな、そう呼ぶことに決めたのじゃ……それだけじゃ」


 少し、気恥ずかしそうに、野分は応じた。


 その姿も含め……ワダヤマヒロシは、思わずその場に固まっていた。


 それは……見惚れた、と言っても良かった。


 その……ワダヤマヒロシから見た、野分の姿は。


 瞳うるうる!!


 唇つやっつや!!


 お肌もっちもち!!


 おっぱいぷるーんぷるん!!(これが言いたかっただけ)


 それはまさに……『生命力』に溢れた姿だった。


「(な、なんだよこれ……こいする乙女、て感じじゃねーか……)」


 まあ実際には行為こういする乙女だったわけだが。


 妙に緊張しながら、ワダヤマヒロシは、心の中で呟く。


「(ま、まあ確かに……今際の際とはいえ、告白っぽい事をしそうになった俺なんだが。


 けどなあ………俺と『サイズ的に』合致しねえし。


 それに……野分が『星の巨人(スタージャイアント)』化できるのが数分ってのもなあ。


 どう考えても『間に合わねえ』じゃねーか!!


 と言うより……もし間に合っちゃったら、俺……海よりも深く落ち込む自信があるな。


 やれやれ……俺の年齢=DT記録、絶賛更新中かよ……。)」


「……? な、なんじゃ、お前さま。


 我の顔に何かついておるのかの?」


 無意識にため息をつきながら、野分を眺めるワダヤマヒロシ。


 少し気恥ずかしそうに応じる野分……困った様子で遅れた髪の先をいじって見せていた。


 まさしく、知らぬはワダヤマヒロシのみ。


 とは言え……この二人、そろそろ爆発しても良いころであった。

「ていうか……俺、あの状況で、何で生きてんの?


 ていうか……ここ、どこ?」


「さて……だいぶ西の方に来てしまったからな。


 ビョルンストルム王国は超えて……おそらくは、ゲルリッツ帝国あたりだと思うんじゃがの。


 もう少し西に行けば砂漠地帯……魔族どもの住む領域じゃな。」


「!! へ、へえ……」


 問いかけに応じた野分の言葉に……ワダヤマヒロシは、ぎくりとしていた。


 その脳裏をよぎっているのは……先の撃退戦である。


 ビョルンストルム王国近衛兵を、追撃するベルリッツ帝国兵から守ったワダヤマヒロシ。


 そして、五〇〇名もの帝国兵を殲滅したパーティ『風水害対策本部』。


 帝国側に発覚すればおそらく、指名手配では済まないだろう……戦争中とはいえ、追撃隊を組織されてもおかしくないレベル。


 そのほとぼりも冷めないうちに……ワダヤマヒロシたちは帝国領に降り立っている。


 ワダヤマヒロシが焦ったのも当然であった。


 ワダヤマヒロシは……ひきつった笑いを見せながら、続ける。


「へ、へェェ……そ、そうなのかァ、ゲルリッツ帝国領なのかァ。


 ちなみに俺たち……なんか、城っぽい建物の前にいるんですけど。


 な、なんか……一部崩壊してるんですけど。


 こ、これってまさか……俺が壊しちゃったのかなァァァァ…?


 こ、ここってまさか……帝国の本拠地なんてことはないよねェェェェ!?」


 若干声を裏返しながら、絶叫するように問うワダヤマヒロシ。


 それに……野分は飄々と答える。


「おお、確かにここは……帝都じゃな。


 この城を見て思い出した……六〇〇年以上の歴史を誇るという、美しき白ラインバイス


 見紛う事なき、帝都の象徴にして皇帝の居城、ラインバイス城。


 と言っても今は……灰色城とでも言うべきかもしれんな」


 野分の指摘通り……ワダヤマヒロシの目の前には、一部が崩壊し、もうもうと粉塵を上げて薄汚れていく白い城があった。


 そう……ワダヤマヒロシが六〇数トンの質量を叩きつけたのは、地球に現存していれば、普通に歴史遺産に登録されるレベルの美城。


 一部とはいえ一度破壊してしまっては……二度と元に戻らない芸術品であった。


 織田信長に見せたら『大名物』と言うに違いない、富士山レベルの比類なき名城。


 その瓦礫に埋もれながら……視線を泳がせるワダヤマヒロシ。


 と………何本かの塔に囲まれた主塔の中心、城の中央部。


 そこから……地獄の窯が開いたかと思わせるほどの殺気を放つ者の視線を感じていた


 ワダヤマヒロシは知らなかったが……皇帝女帝(カイザーカイゼリン)クリームヒルト・ゲルリッツその人であった。


「ぶ……ぶ……ぶっ殺せええええええええええ!!」


「ひいい!? かっ、返す言葉もございませんんんんん!!!」


 怒らせなくとも怖い兄ちゃん姉ちゃんの、それも魂の咆哮に……ワダヤマヒロシは無意識のうちに頭を下げていた。


 見紛う事なき、NIPPONの伝統芸、DOGEZZAであった。


 ただし……平伏の途中で、服の袖が引っかかり、塔がもう一本崩壊していた。


 追加でもうもうと上がってゆく土煙の中……ワダヤマヒロシは、自分の死を予感していた。


 死因はおそらく……皇帝女帝クリームヒルトの激怒の視線による刺殺であると思われた。

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