俺のイチャイチャがラブラブしなさ過ぎて困る件4
「まったく……いつまで飛ぶのやら。
いくら景色が良いとはいえ……見飽きてしまったのう」
野分は……後方に流れてゆく景色を見ながら、そう言いながら、ため息をついていた。
野分は今……『機上』の人となっていた。
黄金の機体に白銀の装飾が入ったその『紙飛行機』。
『オリハルコン』と『ミスリル』で出来たその全翼機は、今もまだ飛び続けていた。
地上二〇メートル程というところであろうか。 時速で言えば、二十数キロと言ったところか。
その翼の上に、野分はいた。
そして……続ける。
「のう? 『お前さま』よ………」
呟くように、ささやくように……野分はそう言いながら、視線を自らの太ももに向ける。
それだけで、野分の口元は、柔和な形を作るのだった。
そこにいたのは……彼女より一〇『センチ』は背の低い男だった。
ワダヤマヒロシ。
それは、身長『一七〇センチ』の彼が、身長『一八〇センチ』の野分に膝枕をされているという光景。
そこだけを見れば……それはどこにでもありそうな光景。
なぜ爆発しないのか不思議なほどのリア充カップルが、そこにいた。
それは、月並みな言い方をすれば、一枚の写真のような。
物語のハッピーエンドを切り取ったような、奇麗な光景だった。
耳にかかる髪を直していた野分の指が、自分でも意図せず……自然と膝の上のワダヤマヒロシの頬に触れる。
自然と、ワダヤマヒロシの頬の上をすべる。
それだけで……野分は、満ち足りてしまいそうになっていた。
……いや、満ち足りて………溢れ出しそうとしていた。
……と。
その時。
それまで、毒気など一切なくなってしまったかのようにキレイだった野分の顔が……不意にジャイアニズムを帯び始めていた。
「……ふむ。
どうせなら、もう一度……いや、一度で済むかどうかは自信はないのじゃが。
……ふふふ。 我のものは我のもの、お前さまのモノは我のモノ、じゃ」
安スナックのヘルプの下ネタ姉ちゃんか、ヤリ手ババアかというようなセリフを吐く野分。
ジャイアニズムどころか……『邪悪な肉食獣』とも言うべき微笑がそこにあった。
先ほどまで『恋する乙女』のようだった野分が……『交尾する乙女』に華麗に変身していた。
も、『もう一回』、たべられちゃうー。
そうそう……記述していなかったが、野分は全裸であった。
憐れなワダヤマヒロシはMP切れで昏倒しているさなか………肉食系肉食女子に食い散らかされてしまっていたのだった。
……心なしか、少々ワダヤマヒロシの顔がやつれて見える。
ちーん。
……別に下ネタではないが、世界のどこかから、そんな音が聞こえてたような気がした。
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「お、お師匠!! そ、それ以上は拙者に毒でゴザル!!
み、未成年の健全育成を図ろうとは思わないのでゴザルか!?」
『機首』の辺りにいた『ルビンスキー』は、不意に絶叫しながら……二人に背を向けたまま、顔を真っ赤にしながら、野分の服を投げつけていた。
それは機上を滑らかに滑りながら、うまく野分の顔に命中した。
……ていうか、『ルビンスキー』はゴザルの人だったらしい。
もう少し追い詰めれば、はわわっ、ぐらいは言ってくれるかもしれない。
『そんな奴いねえよ!』などと異論はあるかもしれないが、ここは流行りの『見える化』、『記号化』という事で、一つ。
「……わぶっ。
こ、こらルビ、我の服を投げるな!!
せっかくの逢瀬を邪魔するではない!!」
動揺した様子で文句を言う野分。
……完全に『ルビンスキー』の事は忘れていたようだった。
「な、何が逢瀬でゴザルか!! ゆうべも一晩中だったではコザらんか!!
もう、太陽も出てるでゴザル! 少しは黄色く見えたりしないのでゴザルか!?」
小さな顔でわたわたしながら言う『ルビンスキー』に、野分はまた……邪悪な笑みを見せる。
「ぬふふふふふ。 ではおヌシも参加するか。
我は構わんぞ?
いや……待てよ、もしおヌシが我が主と番って子供を産めば……おお!!
それが育てば、我は今度はそちらと番えるではないか!!
我の方が寿命が長いこともあるし……おお!!
もしかすれば次の世代も、その次の世代もエンドレスで………?
な、なんと!!
夢のような未来ではないか!!
よし、ルビ!! こちらへ来い!!
お前には早いかもしれんが……予習ぐらいはさせてやっても良い!
元気な子供を産むのだぞ! できればそれなりの見た目が望ましい!!」
「はわわっ!?
けけけけけけケッ↑コウ↓でござる!!」
……もう出た。
機首付近で正座をしたまま大いに声を裏返しながら、『ルビンスキー』は真っ赤な顔で絶叫するのであった。
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「乗って来んか……やれやれ。 興をそがれてしまったな……」
ぶつぶつ言いながら、ため息をついてから立ち上がって服を着ていく野分。
ごん!!
当然のように、ワダヤマヒロシの後頭部は『金属製』の紙飛行機に打ち付けられることとなっていた。
「ううぅぅ……」
真っ赤な顔をしたまま、少し怒った様子で唸りながらも……甲斐甲斐しく服を手渡してゆくルビンスキーさんであった。
「冗談じゃ、そんなに怒るな」
にん、と悪い顔を見せながら言う野分に……ルビンスキーは食って掛かる。
「いや、絶対冗談のつもりはないのでござろう、お師匠!
うぅ、とはいえ、拙者は……ご主人の奴隷の身でござるゆえ、そうせよと言われれば……うう。
……左様でござるか。
拙者は将来、ご主人の子供を身ごもることになるでござるか………うぅ……。
拙者はあの時、ご主人に手籠めにはされなかったのでござるが……結局同じことだったという事でござるな………せめて優しく……痛っ!!」
悲観した様子で言うルビンスキー……最後のは、野分にぺちんと頭を叩かれたからであった。
「な……なにをするでござるか、お師匠!!」
「……なんか、ムカついただけじゃ」
「うぅ……理不尽でござるよ……」
涙目になって野分を見上げるルビンスキー。
それに鼻を鳴らす野分。
可愛らしい嫉妬といえなくもなかったが……それならせめて、普段の行動を改めてほしい所であった。
と……その時だった。
ワダヤマヒロシの身体が、不意に小さく動いた。
どうやら、覚醒が近いらしい。
「おお……小さいご主人がお目覚めにござるな。 ……痛っ!?
お師匠!! 今度は何でござるか!?」
ふいにもう一度理不尽を叩きつけられ、ルビンスキーは涙をちょちょ切らせながら問いかける。
しかし。
野分は……妙に静かな表情を見せていた。
それと同じくらい静かで神妙な口調で……野分は続ける。
「ルビよ。
昨夜のことは……我が主には内緒じゃぞ?」
「……えぇと。
では、先ほどの件は話しても良………嘘でござる!!」
必死で悲壮な声を上げるルビンスキーに……野分はもう一度拳を振りあげていた。
座りながら全力でガードを固めて見せるルビンスキー。
そのまま、数秒の沈黙……そののち、ルビンスキーが驚いたように野分に問い返す。
「ええっ? 本当に内緒にするのでござるか?
その……あの……アレはその、男女の一大事では?
それを話さないというのは………」
意外そうに言うルビンスキーに、野分は一度鼻を鳴らした。
「ふん……いいのじゃ。
話してオタオタ驚く姿を見るのも一興じゃろうが……まあ、ここはな。
黙っておいた方が、良いじゃろう。
妙に気を使われても、興が削げるというものじゃ。
なれば我は、前の距離感の方がよい」
妙に神妙な表情で言う野分。
それを、呆然と聞くルビンスキー。
「はぁ……だったら何で手を出したのかと、小一時間ほど問い詰めたい感じでござるが。
まぁ……お師匠がそう言うのなら………」
首を傾げながら、唸るような口調で言うルビンスキー。
と……その時だった。
て↑れ→れ↓れっ↑てっ↓てっ→てー↑。(著作権対策)
世界のどこかから、まるで宿屋に泊まるか完全回復アイテムを使用したかのような音が聞こえたような気がしたかもしれないような気がしたかもしれない。
それは即ち、ワダヤマヒロシの覚醒であった。
それは即ち、ワダヤマヒロシの完全回復であった。
それは即ち、ワダヤマヒロシの膨大なMPが、満たされたという事だった。
それは即ち……。
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ぼうん。
不意に野分とルビンスキーは……妙に柔らかい物体に突き飛ばされていた。
そしてそのまま、足場を失う。
「「ふひゃあああああ!!!!!????」」
同時に二人の口を付く悲鳴。
続いて二人に見舞われたのは、重力による自由落下であった。
二人は足場を失うどころか……完全にその妙に柔らかい物体に『紙飛行機』の上から弾き飛ばされていたのだ。
二人を機上から押し出したのは……身長『一七メートル』となったワダヤマヒロシだった。
MP完全回復のため、スキル『星の巨人』が自動発動していたのだ。
『紙飛行機』の全長は一〇メートルほど。 ワダヤマヒロシからすれば、一メートルもない。
そしてワダヤマヒロシの体重も……六〇数トンに『完全回復』。
いかなる力によるものかは知らないが……一晩中飛行を続けていた『ミスリル』と『オリハルコン』で出来た『紙飛行機』も、急激なワダヤマヒロシの変化に耐え切れなかった。
かくして全翼型の魔法金属製紙飛行機は優雅に墜落する間もなく……完全に垂直落下していた。
「「ふわあああああ!!!!!????」」
野分とルビンスキーの悲鳴が、よく晴れた空に吸い込まれていった。
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