第二章 第六話 ~予選~
今回から三人称に戻します!
……コロコロ人称が変わって申し訳ない(´・ω・`)
蹂躙という言葉は、日頃聞きなれない言葉だ。
平和な今の世の中において、そんな物騒な言葉を聞くのは珍しい。
『現実ならば』
ゲームの世界においては、その限りではない。
ゲームにおいて、蹂躙なんて日常茶飯事なのだ。
初めて戦うモンスターになす術なく叩き潰されたり、格上相手に無謀な戦いを挑んで容赦なく殺されることなんて、よくある話だ。
だから、今、目の前で起きていることは、このゲームを楽しむプレイヤー達には見慣れた光景なのだ。
見慣れた光景の、はずなのだ。
しかし、誰もが自分の目で見た情報に、信じられないと唖然となってしまっていた。
それもそのはずだろう。
開始5秒で、リング上のプレイヤーが一人残らず殺されたのだから。
たった一人、広いリングの上に佇む、いつもの黒い鎧ではなく、さらに禍々しい赤黒い鎧に身を包んだ少女は、短く呟いた。
「……つまんないの」
記念すべき初イベントの初戦は、誰も予想だにしない結果で終了したのだった。
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「たっだいま〜♪……って、どうしたの?みんな揃って変な顔をして。あたしが勝つのがそんなに意外だった?」
帰ってきたカノンが、未だ唖然となっているギン達を見て不思議そうな顔で話す。
「……勝つとは思っていたけれど、あれはあんまりじゃないかな?」
「相手が呆気なさすぎるのよ。あ、ここ座るわね」
苦笑しながらサキが応答するも、気にもとめずサキの右隣の席に座るカノン。
「……文句なら運営に言いなさいよ。『リング上のプレイヤーが一人になったら勝ち』、なんてルールを定めた運営に」
「多分運営も、あんなに早く決着がつくとは思ってなかったんじゃないかな……?」
「早く終わるのに越したことはないでしょ?別にいいじゃない。あたしに勝てない時点で、どうせトーナメントなんて勝ち抜けないわよ」
「……今回の大会、カノンちゃんより強いプレイヤーは参加してないと思うんだけれど」
「そんなことないわよ。フィーネがいるじゃない」
まあ、当たっても負ける気はしないけれど、と呟きつつ、カノンは周りを見渡す。
「そういえばユウは?」
「忘れたの?ゆーくん、第四試合だから、もう控え室に入ってるんだよ」
「ああ、そういえばそうだっけ。ギンは第八試合だったわよね?」
「……おう。でも、お前の試合を見てたら勝ち抜けるか不安になってきたぜ……」
「何弱気なこと言ってんのよ。しっかりしなさい。あんたは強いんだから、十分に」
「カノン……」
「ま、あたしには勝てないけどね〜」
「その一言が無ければ惚れてたよ!分かってるさ、んなことは!」
見てろよ、絶対見返してやっからな!と怒るギンを無視しつつ、カノンは闘技場に入り始めた第二試合の参加者たちを見つめるのだった。
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【第四試合開始十分前となりました。第四試合出場選手の皆様は、リング上へ向かってください】
機械音声によるアナウンスによって、控え室で談笑していた選手達が表情を切り替える。
瞑想していた選手も目を開けて、ゆっくりと立ち上がる。
そんな中、白いコートを身に纏う少年は。
(落ち着け、僕は強い。ちゃんと勝てる。勝てる、はず。勝てる……よね?ヤバい、緊張で足が震える……)
……ガッチガチに、緊張していた。
そんなユウを見て、周りのプレイヤー達は確信した。
カモだな、と。
そんな勘違いを、十分後に正されることになるなんて、知る由もないまま、控え室から出ていくプレイヤー達。
(あ、ヤバい、ちゃんと行かなくちゃ!)
『少し待て、ユウ殿。今のユウ殿では……』
ディーの静止の声も遅く、立ち上がって歩きだそうとした瞬間に足をもつれさせたユウ。
そのまま、目の前の筋肉質なプレイヤーとぶつかってしまう。
「……大丈夫か?」
「ああっ!あ、あの、すいません!」
思わず大声で謝ってしまい、周りのプレイヤーの視線を集めるユウ。
さらに慌て始めるユウに、男性プレイヤーは静かに「気にするな」と言って歩き出した。
その対応にホッと胸をなでおろしつつ、ユウはその後に続いて歩き出す。
そんなやり取りを見て、周りのプレイヤー達は再度思った。
カモだな、と。
その認識を改めさせられるまで、あと八分もない。
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「さあさあ、第四試合開始時刻が近づいて参りました!この試合の実況は引き続き、このイブキが実況を務めさせていただきます!」
「解説のモモタローだ。よろしく」
実況席の二人の声が、少し騒がしいコロシアム内によく響く。
会場にいるプレイヤーは皆、次の試合の勝者を待ちわびている。
「モモタローさん、この試合の注目プレイヤーは誰だと思います?」
「アラン選手だな。『迅雷』の二つ名は伊達ではない。彼がこの中では最も強いだろう」
「ふむふむ。……あ、試合開始時刻が迫ってまいりました。出場選手の皆さん、準備を始めてください!」
その声に応じて、選手達が各々の武器を構え始める。
残り秒数のカウントがゼロに近づくにつれて、緊迫感が増していく。
「……それでは!第四試合、スタートです!」
イブキの声とともに、ゴングが鳴り響く。
その音とともに、参加選手たちの雄々しい声があちこちから上がり、剣戟音が鳴り始めた。
……そして、その剣戟音は、一人の少年の手によって、鳴り止んだ。
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リング上のユウは、緊張でカチコチになったまま、ゴングの音を聞いた。
そして、当然のように剣を振りかぶって襲いかかってくるプレイヤー達の動きを読んで、合間を縫うようにして少し開けたスペースに出て。
ほぼ反射的に、スキル《一心同体》を発動させ、いつもの鎧を身にまとい、瞳の色を白く染めて。
いつもの大剣ではなく、所々に金色の模様が刻まれた真っ白な弓を取り出して。
持ち前の高ステータスを利用して、遥か上空に“跳び上がり”。
美しさを感じさせるほど滑らかな一連の動作の締めくくりとして、弓を引いて呟いた。
「『《聖なる裁きの雨》』」
刹那、少年の弓から放たれた光の奔流が、リング上のプレイヤー達へ迫る。
避ける術もなく、呆然となった彼らに、光の矢の雨が降りそそいだ。
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「……あの、バカ!」
思わず自分の弟の所業に毒づいてしまうカノン。
なるべく目立たないように、と釘を指しておいたにも関わらず、ユウは……
今、万雷の喝采を浴びてしまっている。
「どうすんのよ、これ……」
「……まあ、いいんじゃねぇか?いい加減、ユウも目立ってもいい頃だろうし」
「……」
ギンの苦笑混じりの言葉に、無言になるカノン。
自分も同じことをやったんだぞ、とツッコミを入れる人はいなかった。
ましてや、今目の前で起きたことを飲み込むだけで、観客席の人間たちは必死だったのだから。




