第一章 幕間 フレーム講義(魔導士たちとの攻防)
アケコンが具現化した翌日、王城の大講堂にレイは呼び出されていた。
王国の宮廷魔導士が十二人、威圧的な顔でずらりと並んでいる。
「勇者様」その中でも特に偉そうな、白いローブの老魔導士が口を開いた。「昨日の件について、詳しくお聞きしたいことがございます」
「どうぞ」
「まず、あのアーケードコントローラーとやらは何ですか。魔法の触媒として使う道具のようですが、我々が見たことのない形をしています」
「格闘ゲームの操作デバイスです。脳内コマンドを物理的に入力することで、魔力操作の精度が格段に上がります」
魔導士たちが一斉にざわめいた。
「格闘ゲームとはなんですか」
「二人のプレイヤーが読み合いをする競技です」
「読み合いとは?」
「相手が次に何をするかを予測し、それに対する最適な行動を選ぶことです」
「それは通常の戦闘でも行うことでは?」
「そうです。ただし私の場合、一フレーム単位で行います」
「フレームとは?」
「六十分の一秒です」
「六十分の一秒……」魔導士たちが顔を見合わせた。「その時間単位で何をされるので?」
「相手の技の発生タイミング、硬直時間、反撃可能フレームを計算します」
完全な沈黙が降りた。
一番若い魔導士が恐る恐る手を挙げた。「あの……勇者様は、その計算を戦いながら同時に行っているのですか?」
「はい」
「人間の脳でそれが可能なのですか?」
「一万時間練習すれば、だいたいできるようになります」
十二人の魔導士が全員、死んだ目をした。
「……我々は三十年かけて魔法を習得しました」白ローブの老魔導士が絞り出すように言った。「しかしフレームという概念が魔法に応用できるとは……」
「応用できます。試してみますか」
「え?」
レイはアケコンを手にして立ち上がった。「では一番強い技を出してみてください。全員同時でも構いません」
「……え? 全員で? 勇者様が一人で?」
「はい。発生タイミングと硬直を観察したいので」
魔導士たちがまた顔を見合わせた。
「やりましょう。来てください」
十二人が同時に最大魔法を放った。
レイはアケコンのレバーを握り、各魔法が発生した瞬間を目で追いながら、適切なタイミングで回避し、隙に反撃を一発ずつ叩き込んだ。
十二連続で。
大講堂が静まり返った。
「……発生が遅い人が三人います」レイはメモ帳に書きながら言った。「それから白ローブの方、振り終わりの硬直が長すぎます。もう少し技の選択を散らした方がいい」
白ローブの老魔導士が、口をぱくぱくさせていた。
「勇者様は……我々に、負けた理由を教えてくださっているので?」
「そうです。対戦相手の成長は私の楽しみにもつながりますから」
講堂を出たアルフが、壁にもたれながら天を仰いだ。「……この国は大丈夫なのだろうか」




