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第一章 召喚されました、アケコンください

はじめまして、九十九 ぐるりと申します。


「前世プロゲーマーの私が異世界で無双する件」をお読みいただきありがとうございます。

本作は全十章で完結しており、第四章以降はKindleで販売予定です。

よろしければ最後までお楽しみください。

世界大会の決勝戦、最終ラウンド。


会場を埋め尽くす地鳴りのような大歓声も、神宮寺レイの耳には届いていなかった。彼女の意識はただ一点、液晶画面の中で火花を散らすキャラクターの挙動——いや、その裏にいる対戦相手の「脳のパルス」に向けられている。


残り体力は互角。だが、ここが勝負の分かれ目だ。レイは一フレーム(六十分の一秒)の猶予もない極限状態の中で、冷徹に対戦相手の行動履歴を演算していた。相手は追い詰められた起き上がりに、必ずと言っていいほど無敵技を仕込んでくる悪癖がある。確率にして三回に一回。そして今、二回目の「不発」が終わったところだ。


つまり、次は絶対に——来る。


レイはアケコンのレバーを斜め後ろへ倒した。ガードの選択だ。刹那、画面が割れんばかりの派手な爆発エフェクトが炸裂する。予測通り、相手の無敵技は空を切り、ガードによって完璧に遮断された。致命的な硬直時間。レイの指先がアケコンのレバーとボタンを電光石火の速度で叩き、最大反撃のコンボを正確無比に叩き込んだ。


『K.O.!』


システムボイスの絶叫とともに、試合は終了した。観客席が沸き返り、実況が狂ったように彼女の名前を叫んでいる。


レイはただ、手汗の滲んだアケコンをゆっくりと置いた。


勝った。また、勝ってしまった。


胸を去来するのは、勝利の歓喜ではなく、どこか冷めた乾きだった。


(……今回も、途中で読めた)


それが問題だった。最終ラウンドの緊張感すら、レイには「データ通り」に感じられた。相手の癖を読んで、行動を読んで、全部読んで、勝つ。それだけだ。


きらびやかな表彰台の頂点に立ちながら、レイはぼんやりと考えていた。


この広い世界に、自分と本当の意味での「読み合い」ができる相手は、もう残されていないのだろうか。


そう感傷に浸った、まさにその瞬間だった。足元の床が、突如として禍々しい光を放つ幾何学模様——魔法陣へと変貌した。


「は?」


声を上げる間もなく、彼女の身体は圧倒的な光の濁流に包まれ、その場から消失した。



気づいた時には、ひんやりとした石造りの部屋にいた。足元には淡く光る魔法陣。周囲には、妙にリアルな刺繍の施されたローブを着た人間たちが、大真面目な顔で跪いている。


「ようこそ、我が国へ! 伝説の勇者様!」


中央に立つ白髪の老人が、感極まった表情で両手を広げた。


「アケコンはどこですか」


「あ、あけ……?」老人が完全にフリーズした。


「アーケードコントローラーです。私の私物一式、一緒に持ってきてもらえましたか?あれがないと話になりません」


「そ、そのようなものは、ここには……」


レイは深くため息をついた。「では決勝戦はどうなりましたか。私はまだ表彰式の途中だったんですが」


「勇者様!」重厚な鎧を纏った大柄な男が前に進み出た。「私はこの王国の騎士団長、アルフと申します。今、この世界は魔王の脅威に晒されており、どうか我らに救いの手を——」


「魔王を倒せば、私はここから元の世界へ帰れますか」


アルフは一瞬言葉に詰まった。「……は、はい。古代の伝承では、魔王の核を持ち帰れば、召喚の儀を逆転させられるとそのように」


「承知しました。やります」


「え、あ、いや……今すぐ受け入れていただけるので?」


「一刻も早く帰りたいので。決勝後のインタビューが残っています」


アルフが呆然としている間に、老人がステータス測定を行った。レイの眼前に青白く光る半透明の板が現れた。


【筋力:十】【敏捷:十二】【耐久:八】【魔力:九九九九】


「魔力特化型、ということですか。極振りですね」


「こ、これほどの魔力値は我が国の歴史上見たことがございません!おそらく前例のない大魔導の——」


その瞬間だった。


ステータス板が消えると同時に、レイの全身から圧倒的な光が溢れ出した。魔力が——暴走している。


「っ……!?」


レイは慌てて魔力を制御しようとした。しかし行き場を失った力は、彼女の右手へと集中し、みるみるうちに何かを形作り始めた。


全員が息を呑んだ。


レイの手の前に浮かび上がったのは——アーケードコントローラーだった。


純粋な魔力で編み上げられた、光り輝くアケコン。黒いボディに六つのボタン。左側には滑らかに動くレバー。それは紛れもなく、レイが一万時間以上叩き込んできたものと同じ形をしていた。


「……え」


レイは呆然とその「光のアケコン」を手に取った。ずっしりとした重量感。手に馴染む感触。ボタンを軽く押すと、指先から魔力が流れ込んでいく感覚がある。


「あんた様の魔力が……物を作り出した……?」老人が震えながら言った。


「魔力を操作する媒体として、脳が一番使い慣れた形を作り出したんだと思います」レイは冷静に分析しながら、レバーを一回転させた。指先から魔力がほとばしり、部屋の壁に小さな爆発が起きた。


全員がのけぞった。


「……動きます」レイはアケコンを見つめ、初めて表情が動いた。「帰れなくてもいい、とは思いませんが——これなら、戦えます」


アルフが震える声で言った。「つ、つまり……あのアーケードコントローラーとやらを叩くことで、魔法が……?」


「そういうことになりますね」


「な、なぜそんな形に……」


「私が一番使い慣れた形だからです。コマンド精度が最大になる」


アルフと老人と騎士たちが全員、顔を見合わせた。


こうして、光のアケコンを手にした異世界最強のプロゲーマーが、世界を救う旅を始めた。



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