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ガイ・グレーム・クロイドンの黄金の五年間  作者: 水前寺鯉太郎


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冬の迷路と、白く消える地図


12月 6日


さむい。 きょうは 雪(ゆき)が ふりそうな 空(そら)だ。

あたまの なかも、 白い 雪が たくさん ふっていて、 前(まえ)が よく 見えない。

きょうは、 たいへんなことが おきた。

大学(だいがく)へ 行(い)こうと 思(おも)って、 いつものように 外(そと)に 出たんだ。

毎日(まいにち) 歩(ある)いている 道(みち)なのに、 とちゅうで きゅうに、 ここが どこだか わからなくなって しまった。


右(みぎ)を 見ても、 左(ひだり)を 見ても、 見たことのない 知らない 家や 知らない 木ばかり。

世界(せかい)の かたちが、 きゅうに かわってしまったみたいだった。


僕は カバンを ぎゅっと にぎりしめて、 何度も 角(かど)を まがった。

shadow(かげ)が 長(なが)くなっていく。

歩けば 歩くほど、 もっと 知らない 場所に 出てしまう。


心臓(しんぞう)が どくどくして、 息(いき)が 苦(くる)しくなった。


「ぼくは、 どこに 行こうとしていたんだっけ」


大学という 言葉(ことば)は 頭に あるのに、 それが どんな 場所で、 何のために 行くのか、 一瞬(いっしゅん) わからなくなった。

三十五歳(さんじゅうごさい)の 大(おお)きな からだを した僕が、 冬の つめたい 風の なかで、 子供(こども)みたいに 泣(な)きそうになって 立(た)ち尽(つく)くしていた。


「あるつはいまー」


ノートの はしっこに、 むかしの 僕が 書いた 病気(びょうき)の 名前(なまえ)が ある。

今の 僕には、 その 意味(いみ)が はっきりと わかる。


頭の なかの 地図(ちず)が、 消しゴムで 消されるように 白くなっているんだ。

二十四歳の 僕が、 頭の 奥で 「道に 迷(まよ)ったんじゃない、 脳(のう)が こわれているんだ」 と 冷(つめ)たく 叫(さけ)んでいる。

それが 一番(いちばん) 悲(かな)しい。 まだ 悲しいと 思う 気持ちだけが 残(のこ)っているのが。


気がついたら、 ギルバートさんが 僕の 前に 立っていた。

息(いき)を 切らして、 顔を 真っ赤に して、 僕を さがしてくれていたんだ。


「ガイ! よかった……お前、 こんなところで 何してるんだ」


ギルバートさんは 僕の 大(おお)きな 手を 引っぱって、 パン屋に 連(つ)れて帰ってくれた。

ストーブの 前で、 あったかい ミルクを くれた。


「ガイ、 もう 大学には 行かなくていい。 ここに いろ。 お前は ここで パンを 見ていればいいんだ」


ギルバートさんの 声(こえ)を 聞きながら、 僕は 日記(にっき)を ひらいた。

読める 漢字(かんじ)が、 本当に 少(すく)なくなった。

あしたは、 ギルバートさんの 顔(かお)が わかるだろうか。

それだけが こわくて、 僕は 何度も 「ギルバート」 という 文字を なぞっている。

おやすみなさい。

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