六分の六
「……ひょっとして……パフェ代ですか?」
「ええ、まぁ……」
恥ずかしそうに答える和哉を見て、急に安堵が込み上げる。
途端に、全身の力が抜けて踏ん張りが効かない!
その場に座り込んだ穂華の意識が十数秒間、遠のく。
……左脇に回された手の在処に気遣いを感じる。
……右後頭部に当たる柔らかなクッションが時折、隆々とした逞しさで弾んだ。
……右側の臀部に当たる感触から、そこが均等に割れているのも判った。
……両膝の裏に当たるゴツゴツした、骨ばった感じは少し痛いくらい。
ただ、右の乳房に当たる硬い角とは比較にならない。
人工的な異物に突かれる痛みで意識が揺さぶり戻される……。
(ちょっと待って! アカン! アカンて、この状況は!)
道中の穂華は意識より先、体勢を取り戻しに掛かる。
「降ろして下さい! 大丈夫です! もう、ひとりで歩けますぅ!」
だが、既に遅過ぎた。
和哉にプリンセス・キャリーで運ばれる姿は、衆目の的。
慌てたところで、そこはもうスタッフ・オンリーと書かれた扉の前で、衆人環視が終わりを迎える寸前!
それでも穂華は地面に足を着けた。
その直後、望んでもいない解答編に突入することも知らずに……。
「これに見覚えありませんか?」
そう言うと、和哉は内ポケットから先の人工的な異物〈アクセサリーケース〉を取り出し、開いてみせた。
アゲハ蝶を模った銀製のシルエットに『H・T』の刻印……。
ペンダントをひとめ見て、穂華は咄嗟に下腹部に手を充がった。
「店長、体調不良なので早退させて下さい」
急遽、出番を追加された守田に台詞など無い。
「昨日の控え室、ちょっとお借りします」
スタッフ・オンリー(の筈)の扉の向こうに消える二人を黙って見送るだけ……。




