表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/53

六分の六

「……ひょっとして……パフェ代ですか?」


「ええ、まぁ……」


 恥ずかしそうに答える和哉を見て、急に安堵が込み上げる。


 途端に、全身の力が抜けて踏ん張りが効かない!


 その場に座り込んだ穂華の意識が十数秒間、遠のく。


 ……左脇に回された手の在処(ありか)気遣(きづか)いを感じる。


 ……右後頭部に当たる柔らかなクッションが時折、隆々とした(たくま)しさで弾んだ。


 ……右側の臀部(でんぶ)に当たる感触から、そこが均等に割れているのも判った。


 ……両膝の裏に当たるゴツゴツした、骨ばった感じは少し痛いくらい。


 ただ、右の乳房に当たる硬い角とは比較にならない。


 人工的な異物に突かれる痛みで意識が()さぶり戻される……。


(ちょっと待って! アカン! アカンて、この状況は!)


 道中の穂華は意識より先、体勢を取り戻しに掛かる。


「降ろして下さい! 大丈夫です! もう、ひとりで歩けますぅ!」


 だが、既に遅過ぎた。


 和哉にプリンセス・キャリーで運ばれる姿は、衆目(しゅうもく)の的。


 慌てたところで、そこはもうスタッフ・オンリーと書かれた扉の前で、衆人環視(しゅうじんかんし)が終わりを迎える寸前!


 それでも穂華は地面に足を着けた。


 その直後、望んでもいない解答編に突入することも知らずに……。


「これに見覚えありませんか?」


 そう言うと、和哉は内ポケットから先の人工的な異物〈アクセサリーケース〉を取り出し、開いてみせた。


 アゲハ蝶を(かたど)った銀製のシルエットに『H・T』の刻印……。


 ペンダントをひとめ見て、穂華は咄嗟(とっさ)に下腹部に手を(あて)がった。


「店長、体調不良なので早退させて下さい」


 急遽、出番を追加された守田に台詞など無い。


「昨日の控え室、ちょっとお借りします」


 スタッフ・オンリー(の筈)の扉の向こうに消える二人を黙って見送るだけ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ