第53話 私は、お父様に話す。
(side:桔梗)
ゴールデンウイークの最終日。
私は、お父様とサーキットに来ていた。
といっても、私の趣味ではない。
お父様がレース好きで、昔からよく連れてかれてたのだ。
そして今日は、私が車を運転してここまで来た。
「いやぁ、今日のレースも楽しみだ」
お父様は、私の横でうれしそうにしている。
私はレースにさしたる興味はないものの、ふとした興味からお父様に訊いてみる。
「お父様は、どの選手がお好きなのですか?」
「そうだな。桔梗の世代で言うところの今の最推しは、伊良湖健一郎だな」
私はお父様の答えを聞いて、え?となる。
「下を見てみろ。バイクが下に順序良く並んでるだろ?その先頭にいるのが、伊良湖健一郎だ」
えっ?先頭?
私は、お父様に言われた通り、止まっているバイクの先頭を見る。
あのバイクに乗ってるが、健一郎くんなの?本当に?
「スタート10秒前!」
「お、そろそろレースが始まるな。よく見ろよ、彼の走りを。しびれるぞ」
5・4・3・2・1
「ブラックアウト、今レースがスタートしました!
25台のバイクが一斉に1コーナーへと向かっていきます」
サーキットに流れるアナウンスからすぐ、たくさんのバイクが走り出す。
健一郎くんのバイクも走り出す。
すると最初のカーブでいきなり彼は他のバイクより明らかに速いスピードで曲がっていく。
「え?」
「驚いたか?彼はな、コーナーが異常に速いんだ。
彼は、どこのサーキットでも一回コースを走れば、誰よりも速く走るんだ。
その順応の早さと単純な速さに惹かれて、俺は彼を推してるんだ」
知らなかった。
彼が、そんなにすごい人間だったなんて。
あの出来事で彼のことを好きになってから、デートや学校でお話したりで彼と接してきたけれど、そんなことは私は知らなかった。
「どうした、そんな顔して?」
お父様が、怪訝な顔をする。
ここで私が彼と付き合っている言えば、大変なことになるかもしれない。
でも、どちらにしてもいずれは、そのことはどんな形であれ発覚する。
覚悟を決めた私は、彼との関係をお父様に話す。
「お父様」
「どうした?唐突に真剣な顔になって」
「お父様が推していらっしゃる選手なのですが、実はその……私の、彼氏なんです」
「そうか、は?なん……だと……?」
私が事実を話した瞬間、お父様がこれまで見たことがないほど、驚いた顔をする。
「それは、本当か?」
お父様は、真剣な目つきで訊いてくる。
「はい、本当です」
私は答える。
「そ、そうか」
お父様が困惑した顔をする。
そしてその後、お父様が黙る。
そのままお父様は一言も話すことなく、レースを観戦する。
そしてそんな気まずい状況のまま、レースが終わった。
「今回も伊良湖は速かった!スタートからフィニッシュまで、誰も寄せ付けませんでした!」
「いやあ、今回もすごい走りでしたね」
解説の人が、今日のレースについて振り返っている。
表彰式が終わってすぐ、お父様が立ち上がるので、お父様についていく。
車に乗ってすぐ、お父様が私に訊いてくる。
「桔梗。本当にあの伊良湖健一郎と、付き合ってるのか?」
「はい」
はっきりとお父様のその問いに答えると、お父様が私に更に訊いてくる。
「付き合い始めてどれくらいだ?」
「まだ1ヶ月ほどです」
私の答えに少し考えるような仕草をした後、お父様が私にお願いする。
「付き合ってる間に、機会があったら、うちに連れてきてくれないか?」
私はお父様のお願いに、答える。
「わかりました。いつか連れてきます」
「ああ、たのむ」
お父様がそう答えた後、私は車を発進させ、お父様とともに家へ帰った。
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(side:健一郎)
レースが終わり、帰っていると、スマホが震える。
見ると、栗栖からLI〇Eが来ていた。
明日、授業終わったらすぐに図書室ね。
忘れないでよ
俺はすぐにメッセージに送る。
わかった
すると、すぐにOKと書かれたスタンプが来た。
俺はそれを確認してすぐ、車内で寝る。




