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第37話 俺は、父と話をする。

「随分と情熱的なキスしてたわね」



そう思って数秒、母がリビングからこちらへ向かってきながら言ってくる。



「いやあれは、姉がしてきたからで」

「はいはい、そういうことにしておくわね」



反論を母に軽くあしらわれた俺は、心の中でため息をつく。



「もうみんな夕ご飯食べたから、健一郎も早く食べなさい」



母の言うことに従い、リビングに向かう。



「あ、そうそう。巌さんが、夕飯食べたら部屋に来いって」

「わかった」



母の伝言通りに夕飯を食べた後、俺は父の部屋へ行く。



「来たな」



俺が父の部屋に入ると、一枚の紙を渡してくる。



「日曜日、ここで特別訓練だ」

「はい……ん?」



俺は紙に書いてある内容を読んで、苦虫を噛みつぶしたような顔をしてしまう。



「父さん、ここ」

「お前の苦手を克服するには、ちょうどいいだろう?」

「……そうだな」



俺が紙をポケットにしまうと、父が姉について聞いてくる。



「ところでお前、静の彼氏になったんだってな?静とはどこまで進んだんだ?」



父が、姉との恋人関係の進み具合について、聞いてくる。



「どこまでと言われても」

「そう言うが、今日、家に入ってすぐ、静とあっついキスしてたよな?」

「見てたのか!?」

「おお、ばっちりな」



父がサムズアップして、俺と姉がキスしてたところを見たと報告してくる。



「あ、あれは、姉さんのほうからしてきただけで」

「でも、したってことは、少なくとも静のことが嫌いじゃないんだろ?」

「いや別に、どっちでもない」



俺がきっぱり答えると、父は不思議そうな顔をする。



「そうか」

「というか、俺と静が付き合ってることに対して、父さんは何も言わないのか?」

「別に。明美も言ったかもしれないが、義理の姉弟は結婚できるわけだしな。

なら、自ずと付き合うのも問題ないからな」



父は何を今更、というように言う。



「俺が言うのもなんだが、料理がそこそこできて、掃除洗濯も要領よくやる。

美人ですらっとしてて頭よくて、おまけにナイスバディ。

おまけに静は"昔から"お前以外の男は眼中にない。

こんな女、今じゃほとんどいないぞ?」



昔から……?

昔、俺は姉とどこかで会ったことがある、というのか?



「そんな女がカノジョなんて、奇跡なんてものじゃないぞ」

「ちょっと待ってくれ」



俺は父の言葉に引っかかりを覚え、父に訊く。



「昔、静と俺は会ったことがあるのか?」

「お?何言ってんだ。お前は昔……そうか、そういやお前はアレから、昔の記憶が一部なくなってるんだったか」

「ああ。退院するとき、医者から記憶喪失になっているようだ、そう言われたな。正直、俺は父さんがさっき言ったこともそうだが、本当にここに前から交流があったのかも疑ってる」



そう言いつつも、俺はあの日からときどき、何かを忘れているように感じることがある。

それが本当に記憶していた出来事を思い出せないのか、してもいない体験を昔したかのように錯覚しているのか。

それは未だ不明だ。



「そうか。でもな、事実として静は昔の出来事がきっかけで、お前のことが本当にどうしようもなく好きなんだよ」

「はぁ」



確かに、姉のスペックは高い。3ヵ月そこらしか一緒に住んでない俺でも、そう思う。

おまけに、俺に対して好意を全く隠さない。むしろ全力で俺にそれをアピールしているまである。

だがどうしても、俺には思うところがあった。



「静は、何故あそこまで私のことが好きなんだろうか……?」

「そいつは静に聞くしかねぇな」

「しかし、いえなんでも」



果たして、そもそもその好意は本物だろうか、そしてそれはいつまで続くだろうか。

いや、今更考えるまでもない。その答えを、俺は知っている。



「もうこんな時間か。時間取らせて悪かったな」



時計を見た父が言う。

俺も時計を見て、そろそろ寝る時間な事を確認する。



「ああ、別にいいよ。父さん、また明日」

「おう」



俺は、父の部屋を後にする。

俺は風呂に入り洗面を済ませ、自分の部屋へと戻る。

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