第36話 俺は、知っている。
綾瀬先輩を見送り玄関に入ると、そこには姉がいた。
「お帰り」
「ただいま」
帰宅の挨拶をした刹那、俺の唇に先ほども感じたやわらかい感触を、感じる。
「んっ」
姉が俺にキスをした。
「あむ、ん……じゅる」
しかし今日は、それだけで終わらず、姉が俺の舌を唇で挟んで吸ってくる。
「ん、れろ……んふっ……」
俺は姉にされるがままに、唇を奪われ、舌を絡められる。
「ちゅ、んむ……ふぅ」
最後、姉があの時のように、俺の口の中を味わうように舌で舐めまわした後、唇を離す。
「お帰りのキス」
「なっ。今まで全くしたことなかったのに、今日はどうして」
姉に尋ねると、姉は頬を赤らめる。
「わたしは、健くんと一緒に暮らすようになってからずっと、毎日こんなことをしたいって思ってた。
あの日までは、わたしはあくまで健くんの姉だったから、抑えてたの。
でも今は、わたしは健くんのカノジョだから、もうその気持ちを抑えなくてもいいって、そう思ったの。
それじゃ、夕ご飯もうできてるから、」
姉が、自分の部屋へと去っていく。
姉が去った後、姉がさっき言ったことが脳内でリフレインしながら、俺は思う。
姉も綾瀬先輩も栗栖も、結局すぐに俺に対する興味を一切失って、さっさと離れていくといいことを、俺は知っている。




