第28話 わたしは、お父さんに報告する。
(side:静)
家に帰った後、わたしはお父さんの部屋に行く。
「お父さん、今入っていい?」
部屋の前でお父さんに問いかける。
中から、いいぞ、と聞こえたので、部屋の中に入る。
「どうした、静」
「単刀直入に言うね。わたし、健くんと付き合うことにしたから」
部屋に入ってすぐ、お父さんにそう報告する。
すると、お父さんはニコっとする。
「そうか。俺はずっと、その報告を待ってたぞ」
「ただ」
わたしがその言葉を付け加えた瞬間、お父さんが表情を曇らせる。
「ただ?どうしたんだ?」
「健くんの学校の同級生と先輩も、同時に健くんのカノジョになった」
「は!?」
お父さんにありままの事実を伝えると、お父さんが口をあんぐりさせる。
「どうして、そんなことになった」
「さっき言った二人が、わたしが認めるなら、同時に付き合うのを許し欲しいって、そう言ったから許した」
わたしが言うと、お父さんが慌てる。
「お、おい。静はそれでいいのか?本当に」
お父さんは焦った声と顔で、わたしに確かめる。
わたしは、厳然とその質問に答える。
「いいよ。健くんは、絶対にその二人に振り向かない。
結局最後は、わたしと結婚することになる。
その自信があるから、わたしはその二人と同時に交際することを許したの」
わたしが言い切ると、お父さんが一瞬驚いた顔をしたあと、ためいき一つ吐く。
「まぁ、そこまで静が言い切るなら、俺はもう何も言わん。
ただな、万が一の可能性ってのも、世の中にはあるからな。
それも踏まえて、恋人関係をすすめろよ」
お父さんが諭すように、わたしに言う。
「大丈夫。万に一つ、いいや億に一つでも、あの二人に振り向くようなことになっても、そのときの対応策は考えてるから」
わたしはお父さんの言葉に、そう返す。
お父さんは、わたしの言葉を聞いて、真剣な表情になる
「そうか、わかった。
だが、策士策に溺れる、ということわざもある。ゆめゆめ油断するなよ」
「わかってる」
「うむ。じゃあ、報告はそれだけか?」
「うん、そう」
「そうか。ありがとう」
わたしは、一言言ってお父さんの部屋を出る。
お父さんの部屋から自分の部屋に戻って勉強をしていると、健くんのバイクの音が聞こえてくる。
わたしは、すぐ部屋を出て玄関に行く。
少しすると、健くんが玄関に入ってくる。
「ただいま」
「おかえり、健くん」
健くんの帰宅のあいさつに応えながら、わたしは健くんが手荷物を増やして帰ってきたことを確認する。
「今日のデート、楽しかった?」
わたしが訊くと、健くんが普段と同じ顔で答える。
「ああ」
「そっか」
わたしは健くんの答えを聞いた後、健くんのことを抱きしめる。
「え、何?」
健くんが、わたしに抱き締められて驚いた声を出す。
「どうした?」
健くんが訊いてくる。
わたしは更に強く、健くんのことを抱きしめる。
「健くんとハグしたくなったの」
健くんの体温を全身で感じながら、わたしは健くんに今の気持ちを伝える。
「はぁ……気の済むまでどうぞ」
健くんが言うので、わたしは健くんの体の温かさを、思う存分味わう。
ほのかに匂う健くんのにおいと、体の感触に安心感を覚えながら、わたしは抱きしめ続ける。
「健くん」
わたしが問いかけると、健くんが反応する。
「何ですか」
健くんが訊いてくる。
わたしは、更に健くんにおねだりする。
「抱きしめ返してほしいな」
健くんの耳元で、わたしはねだる。
すると、健くんは荷物を置いて、黙ってわたしのことを抱きしめ返してくる。
わたしは、健くんとハグしながら言う。
「健くん、ずっとわたしと一緒にいてね」
わたしは健くんの右肩に顔を載せて、お願いする。
「死んだり何らかの事情で離縁したりしない限り、俺は静の弟で、その、彼氏だから、どうしたってずっと一緒だろ?」
「そうとは限らないじゃん。この先、どんな災害や災厄、戦乱その他に見舞われるかわからないでしょ?
どんなことが起こったとしても、わたしは、健くんのもとから絶対に離れたくない」
わたしは健くんの答えにそう返して、頬をくっつけた後に左頬にキスをする。
それから、お互いに離れて健くんを見ると、健くんはドキドキした顔をする。
「今日、わたしとあんなキスして、更にカレカノになったのに、ドキドキするんだ?」
「仕方ないだろ。今まで誰かからも、好意を受けたことがないんだから。
好意をあそこまで向けられたのは静が初めてで、初めてのキスも、静に奪われたからな」
健くんの答えに、わたしはすごくうれしくなる。
わたしが健くんの初めてのキスの相手で、そして、わたしが初めてキスされるほど好意を向けられた相手もわたしだということが、ここでわかったから。
「そうなんだ、うれしい。
わたしはね、ずっと前から健くんのカノジョになりたいって、思ってたんだよ。
そして今は、今すぐにでも結婚して、子供作りたいって思ってる」
わたしの言葉を聞いて、健くんがはっとする。
「まさか、あのとき"姉さん"じゃなくて、名前で呼ばせようとしたのって」
「そ、そういうこと。あ、荷物持っていこうか?」
「大丈夫、ひとりで持てる」
「そっか。じゃ、わたしは部屋に戻るね」
わたしはそう言って、自分の部屋に戻る。
その後は、健くんといつも通りの時間を過ごした。
夕食時には、お父さんがわたしと健くんが付き合うことになったと言ったために、お母さんからも祝われた。




