第27話 俺は、栗栖に××される。
「次はここ」
少し歩くと、男性向けの服屋の看板を指さす栗栖。
「?」
「今度は伊良湖の服を選ぶよ」
そう言って栗栖が店に入るので、俺もそれについていく。
「あんたさ、私服はどんなの持ってるの?」
栗栖は店に入ってすぐ、俺が持ってる服について聞いてくる。
「俺か?作業着しか持ってないな。なにせ、誰かと出かけることがないから。
これなんか、友達と出かけるのに適した服をひたすら探して、唯一これがまともだと思って着て来た服だからな」
そう言った瞬間、栗栖の表情がなんとも形容しがたいものになる。
「悪かったな。学校では、俺はいないもの扱いだからな」
「大丈夫。今日は伊良湖を、あたし好みのかっこいい男にするから」
栗栖が急にサムズアップしながら、やりがいに満ちた表情で、俺を栗栖好みにコーディネートすると言う。
「俺を栗栖好みの格好にか?栗栖好みの服を俺が着ても、絶望的に似合わないだろ」
「やってみなきゃわかんないじゃん?
あたしに任せて。絶対あんたをいい男にするから」
「んまぁ、やるだけやってみればいいさ」
「お、それは挑戦状と受け取っていいね?じゃあ待ってて、選んでくる」
その言葉とともに、俺の服のコーディネートが始まる。
栗栖が持ってきた服を試着室で着て、それを栗栖に見せる事幾数回。
「いいじゃん。超あたし好みになった」
栗栖がそう感想を言った後、俺は鏡を見る。
確かに栗栖が言った通り、俺をして似合ってると思わせるような服装を、栗栖は選んできた。
そして俺は、栗栖が着てと言わなければ絶対着ない服を着ている自分の姿を見て、「お前誰だよ」という感想を心の中で言う。
「栗栖はこういう感じが好きなのか?」
「そうだよ」
栗栖は、今俺が着ているような服装が好きだという。
ジャケットをベースとしたコーディネート。いかにもファッション雑誌ぼモデルがするような格好だ。
普段は絶対着ない服。ただ、こんな服を一式持っておくのも悪くないかと思い、俺はこの服装一式を買うことにした。
こういうこともあろうかと予想していたから、金はちゃんと下してきている。
「ちょっと店の入り口で待っててくれ」
「うん」
栗栖を入り口で待つように言い、着替えて会計に行く。
結構な値段だったが、なんとかなった。
「待たせたな」
「あ、買ったんだ」
「ああ」
俺の答えに、栗栖はうれしそうにする。
「へへ。じゃ、店から出よっか」
俺は栗栖にそう言って、一緒に店を出る。
「いい時間だし、お昼にしようよ」
歩いていると、栗栖がそんな提案するので、店に掛かってる時計を見る。
確かに、昼食にはちょうどいい時間になってる。
「そうだな。栗栖は、どこか行きたいところあるか?」
俺は栗栖に訊く。
「どこでもいいよ」
いじらしい顔で、一番困る答えを栗栖が返してくる。
ほぉ、なら。
「どっかのファミレスでも行くか」
「いいよ。全然オッケー」
栗栖がそう言うので、俺は、栗栖とともにパスタメインのファミレスに行く。
本当に連れてきたが、栗栖は何も言わない。
「いらっしゃいませ。2名様でしょうか」
「はい」
「かしこまりました。お席までご案内いたします」
店員さんに席を案内され、二人で座る。
栗栖は俺の向かいに座って、メニューを眺めている。
「伊良湖は、何にするの?」
「俺は、明太子にするかと思って」
「じゃああたしは、カルボナーラにしよっと。すみませーん」
栗栖、そこに呼び出しボタンがあるじゃろ?
そう言おうとするが、すぐに店員が来たので、何も言わないことにする。
「ご注文をお伺いします」
俺が注文を言おうとすると、栗栖に手で止められる。
俺は黙って、栗栖に任せることにする。
「明太子パスタとカルボナーラ一つづつ。あとドリンクバーを2つお願いします」
「かしこまりました」
店員が注文を聞いて去っていく。
「伊良湖」
俺は栗栖に呼びかけられ、栗栖のほうを向く。
「あんたさ、放課後とか休日に何してんの?」
そんなことを、栗栖に訊かれる。
「んー、色々やってる」
栗栖の質問に、俺はてきと-にそう答える。
どうせ一切興味ないだろうから。
「色々って何なのさ」
栗栖が、俺の答えに対して訊き返してくる。
「色々は色々だ」
俺は栗栖の質問に、玉虫色の答えを言う。
「バイトとかしてたり?」
「そういうときもあるな」
「へぇ、どんなバイトしてんの?」
俺は栗栖にしつこくバイトの質問をされ、ちょっと考える。
「まぁ、よくあるバイトしてる」
「ふぅん」
俺の的を射ない答えに、栗栖は追及をあきらめたのか、そんな反応を返す。
そうこうしているうちに、注文してたパスタが来たので、栗栖と一緒にドリンクバーに行って、ドリンクを注いで席に戻る。
「じゃ、食べよっか」
栗栖のその言葉とともに、食べ始める。
「ごちそうさまでした」
食の好みとか話していたら、あっという間に食べ終える。
「あ、伊良湖」
「いいよ、俺が払うから」
会計をしようとしたら、栗栖が止めようとしてきた。
だが俺は栗栖を制止し、二人分の食事代を払う。
「あ、ありがと」
「礼はいいよ。次はどこ行く?」
その後、俺は栗栖とゲームセンターに行ったりして遊んだ。
そして夕方になり、俺と栗栖は、駅前まで戻ってきた。
「もう時間だし、そろそろ解散とするか」
俺は栗栖に提案する。
「うん」
「今日は栗栖と遊べて楽しかった。じゃあな」
栗栖がうなづいたので、そう言って去ろうとする。
「待って」
すると、栗栖が俺を引き止める。
「どうした?」
「最後に、その……キス、して」
俺が聞くと、栗栖がせがむ。
「え、キ、キス!?」
俺は、栗栖からの突然の言葉に戸惑う。
すると栗栖は、続けて言う。
「今日、お姉さんとキスしたでしょ?
それに、私は今日から、伊良湖のカノジョ、でしょ?
だから、あたしともしてよ」
俺がどう断るか考える間もなく、栗栖が俺の胸ぐらをつかみ、自分のほうに引き寄せる。
「んっ」
そして栗栖が、自分の唇と俺の唇を、合わせる。
数秒の間の後、栗栖は唇を放す。
「じゃ、またね。今日は楽しかったよ、"健一郎"」
そう言って、栗栖は改札へと消えていった。
俺は少しの間呆然とした後我に返り、駐輪場に向かう。
バイクのトップケースに、今日栗栖に選んでもらった服を入れ、いつも以上に安全運転で家へと帰った。




