01 プロローグ
とんでもなくブサイクだから。
たったそれだけの理由で、私は十八年間、同族から嫌われ続けてきた。
私はリサール王国第一王女、レナ。
……この国の恥さらし王女です。
うさぎ族は、とても見た目を重んじる。
特に大切なのは、髪と耳、そしてしっぽの色。
色が濃く、黒に近ければ近いほど高貴で魅力的だとされる。
次に耳としっぽの大きさ。
敵に舐められないよう、そして自分を誇示できるよう、大きく立派であるほど強く、美しい。
けれど私は、そのどれも持っていなかった。
髪も耳もしっぽも、雪のように白い。
耳は小さく、しっぽだってふわふわとは程遠い、ちんまりとした大きさ。
うさぎ族にとって、それは醜さの象徴だった。
「恥さらし王女」
「なんであんな子が王家に生まれたの?」
「見るだけで縁起が悪い」
そんな言葉は、もう聞き慣れてしまった。
だから、お父様もお母様も、お兄様たちも、私を見ようとはしない。
王城で働く使用人ですら、私に近づくのを嫌がる。
お父様もお母様も、あんなに立派で濃い色をしているはずなのに、どうして私はこんな色に生まれてしまったの・・・?
私は次第に考えるのをやめるようになっていった。どれだけマナーを完璧にしても、勉強を頑張っても、周囲に好かれることはなかった。いっそのことせめて王族に生まれなければ、こんなに周囲に疎まれることもなかったかもしれないのに。
でもしかたない。だって私はブサイクだから。
嫌われても、仕方がない。
でも。
そんな私にも、たった一つだけ国の役に立てることがあった。
それは――隣国、狼族の王へ嫁ぐこと。
ウサギ族と狼族は長年敵対してきた。
ウサギ族が建国されたばかりの当時、ウサギ族と狼族の結婚が重なった。しかし、寂しさに耐えられないウサギ族は浮気や裏切りを重ね、完全に信用を失ってしまったのだ。それ以降、うさぎは狼族に嫌われ、うさぎもまた狼を嫌うようになった。
両者は次第にヒートアップし、ウサギ族は貿易にとんでもない関税をかけるどころか、他国からの輸入ルートをも閉ざすと脅し、これに激怒した狼族は戦争を持ち掛けた。
しかし弱きウサギが狼にかなうはずもなく、戦争に敗れたうさぎ族は渋々狼族の言うことを聞くしかなくなったのである。
それが、定期的にウサギ族の王族を差し出すこと。表面上は嫁ぐという形で行われる。これが、いわゆる花嫁という形のいけにえである。嫁いだウサギ族はみな連絡がとれなくなっており、消息は不明。ウサギたちの中では食べられたと噂する者もいれば、残忍にいたぶり殺されたと噂する者もいるが、審議は不明である。
「冷酷で残忍な狼王だ。不細工なお前にはちょうどいいだろう」
お父様は鼻で笑いながらそう言った。
その言葉に、誰一人反対する人はいなかった。それどころか周囲はまるで面白いものを見るかのようにくすくす笑いながら同調した。
狼族の王。
私は一度も会ったことはない。
でも知っている。
うさぎ族なら誰もが知っている。
大きな体に漆黒の髪。
血のように赤い瞳。
先の戦争ではウサギ族をを容赦なく蹂躙し、『冷酷王』と恐れられている人。
きっと私なんて、一口で食べられてしまうくらい怖い人なんだろう。
それでも、私は嫁ぐ。
私にできることは、それしかないから。
もし王様が少しでも話を聞いてくださるなら。
どうか、うさぎ族を許してほしい、とお願いしたい。
それが我が国の民たちを助けることにつながるなら、私は何だってする。
「どうせ見向きもされん。なら、その、醜くてだらしない体でも使って籠絡してこい」
出発の朝、お父様はそんなことを言った。
……体を使うって、どういう意味なんだろう。
でも、お父様が夜になると若い女の人を部屋へ呼んでいることと、きっと同じなんだと思う。
王様は、こんなブサイクな私を送りつけられて、とても怒るかもしれない。
それなら私は、見た目以外で頑張ればいい。
掃除だって洗濯だって、お料理だってできる。
いっぱい働いて、役に立って。
少しでも「嫁にしてよかった」と思ってもらえたらいい。
怖い。
とても怖い。
でも――。ブサイクな私が、国のためにできる唯一のことだから。
私は小さく胸の前で手を握りしめ、狼王国へ向かう馬車へ乗り込んだ。
この時の私は、まだ知らなかった。
狼族の美醜は、うさぎ族とは正反対だということを。
そして、狼王が私の人生をこんなにも変えてしまうなんて。




