第4話
新入生の入学式が終わり、学校行事も一段落したある日。
僕のクラスには、その静けさを一瞬で壊す存在が現れた。
ドタドタと走る足音が止まり、少し間を置いて扉がゆっくりと開く。
「すいません。失礼します」
礼儀正しく挨拶をし、軽くお辞儀をしながら、一人の少女が入ってきた。
真新しい制服に身を包み、胸元には一年生を示す真っ赤なリボンが揺れている。
瞳はすっきりとした二重で、光を受けてきらめいて見えた。
ふわりと揺れる髪は光をまとい、ほどけるように広がる。
少し日に焼けた肌は、周囲まで明るく感じさせるような健康的な印象を与えていた。
その場にいるだけで、自然と視線を集めるような少女だった。
姿を見せただけで、クラス中の視線が彼女へ集まった。
騒ぎになるのも当然だった。
朝、あれほど念を押したのに。
まさか、こんなところまで追いかけてくるとは思わなかった。
少女は両手に弁当箱を抱え、辺りをきょろきょろと見回している。
そして僕と目が合った瞬間――にこりと笑った。
――やばい、見つかった。
彼女は迷うことなく、こちらへ歩いてくる。
「今日はお弁当作るって言ったよね?」
そう言うなり、僕が食べていたパンをひったくった。
それは、購買で買った最後の一個の焼きそばパン。
争奪戦を勝ち抜いて手に入れた戦利品を奪われ、思わず声が強くなる。
「いらないって言っただろ、美咲」
「ねーさん、だよね?」
感情のこもらない声で訂正される。
ねーさんは、いつも通りの日常を学校へ持ち込もうとしている。
周りの目を考えると、少しは控えてほしい。
「違うだろう……」
「何?」
その一言で、続きを言えなくなった。
間違っているのは分かっている。
でも、もうここは引き下がるしかない。
「……いらないと言いました、ねーさん」
言い直すと、ねーさんは満足そうに頷いた。
「ねぇ、クラス違うの?」
ねーさんは、長い髪を揺らす女の子を探しているように見えた。
その表情は、いつもの明るさとは少し違っていた。
僕が適当に言葉を濁すと、ねーさんは少し不満そうな表情を浮かべた。
そんな顔を見ると、どこか可愛らしく思えてしまった。
クラスメートたちは、僕とねーさんのやり取りを興味津々の視線で眺めていた。
ねーさんは、クラスメートたちへ向き直る。
「お騒がせして、すいません」
そう言って、深々と一礼する。
「一ノ瀬理久の双子の姉、美咲です。弟ともどもよろしくお願いします」
ねーさんは満足げだったが、周囲は呆気に取られている。
腕時計を見ると、午後の授業開始まで残り五分だった。
「お昼まだなの。これ、貰っていくね」
ねーさんは、僕の戦利品を持って教室を去っていった。
僕たちは正真正銘の双子だ。
僕が生まれたのは四月一日。
美咲が生まれたのは四月二日。
「後から生まれた方が姉になる。私は理久のねーさん」
そう言い始めたのは、いつだっただろうか……。
その理由を、僕は知らない。




