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年下のねーさん 〜歪んだ瞳に映るもの〜   作者: 太ったカッパは川底を歩く
夏

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第30話

叔父さんとの旅行から帰って数日、ねーさんの様子がいつもとは違う気がする。


言動は変わらないのだが、僕との接触を極端に嫌っているように感じる。


今までが過剰なスキンシップだっただけに、急な変化に心がついていかない。


原因はわからない。


一つだけ、確認しておきたいことがあった。


今日は日曜日。


ねーさんは部活でいない。


決行するにはちょうどいい。



部屋からリビングへ行くと、ソファーでとうさんが新聞を読んでいた。


蒸し暑い廊下とは違い、リビングは心地よいほど涼しかった。


僕は、とうさんの正面に座り、ゆっくりと話し始める。


「叔父さんについて聞きたいことがあるんだ」


とうさんは、新聞を机の上に畳み、眉を寄せて答えた。


「他人のプライバシーを詮索するのは良くないな。それが身内であっても」


僕は、旅行中の叔父さんの寝言について説明すると、とうさんはしばらく黙り込んだ。


「あなた」


キッチンから、かあさんの静かで穏やかな声が聞こえた。


その一言だけで、とうさんの表情が変わった。


「わかった。誰にも話すなよ。美咲にもだ」


「そのつもりだよ」


とうさんの唇の端が、ほんの少し緩んだように見えた。



「朔には、娘が一人いたんだ」


僕は小さく声を漏らす。


「理久と美咲より半年ほど年上で、確か誕生日が十二月頃だったと思う」


僕は、とうさんの話を一言も聞き漏らさないように、身を乗り出す。


「小夜さんは、もともと体が弱くてな。娘を生んで一年ぐらいで亡くなったんだ」


とうさんは一度話を切り、慎重に言葉を選んで話し続けた。


「そのあとすぐに娘を亡くして、朔は憔悴しきっていたんだ」


僕は、知らないほうがよかったのではと、強く感じた。



いつの間にか姿を消していたかあさんが、何かを抱えてリビングのドアから入ってきた。


それは、見たことのない表紙のアルバムだった。


開いたページには、二枚の写真が貼り付けられていた。


一枚は、横に並んだ三人の赤ちゃんが、全員指をくわえているもの。


もう一枚には、ねーさんそっくりの女性が赤ちゃんを抱いている姿が写っていた。


「三人の赤ちゃんはね、理久と美咲と、朔さんの娘なの。一歳ぐらいの頃の写真で、よく三つ子と間違われていたの」


僕は、もう一枚の写真から目が離せなかった。


「この赤ちゃんを抱いているのはかあさん?」


僕は、一瞬固まってしまう。


「そうよ」


かあさんをじっと見つめる。


「かあさんが結婚したの、二十代後半だよね。若すぎない?」


かあさんは眉をひそめた。


「若いころは童顔だったのよ」


僕は、月日の流れというものを思い知らされた。


「何してる?」



かあさんは、若かりし頃の写真をアルバムからそっと剥がし始める。


「ちょっと恥ずかしくなってね」


剥がしたものを、引き出しから取り出した布に丁寧に包んだ。


「聞いてもいいかな。叔父さんの娘の名前はなんて言うの?」


とうさんは表情を変えずに答えた。


「雫だ」


とてもきれいな響きに感じた。

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