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ロシア 2

 ロシア軍が、これまで霧の日に砲撃を避けてきたのは、ドイツ軍を油断させるための罠だった。

 あらかじめ敵陣の位置を精密に測量し、目視に頼らず砲撃する公算射法で奇襲をかけようと、霧がひときわ濃くなる機会を待っていたのだ。


 砲撃に続いて、狙撃兵師団が突入した。

 矢面に立ったのは、ルーマニア第13歩兵師団だ。


 ルーマニア軍は、対戦車砲を1門も装備していなかった。

 そのためドイツ軍は、ルーマニアの1個軍団をもってしても、ドイツの1個師団に及ばないと酷評していた。


 だがルーマニア第13歩兵師団は勇猛果敢に戦い、ロシア軍の第1波を撃退し、戦車に支援された第2波をも跳ね返す。

 しかし、ロシア第4戦車軍団が攻勢に出ると、もはや持ちこたえることはできなかった。


 30分後には50キロ西方で、ロシア第1戦車軍団と第26戦車軍団を基幹とする第5戦車軍が、ルーマニア第2軍団を押し崩す。


 ドイツ軍の戦術を徹底的に研究したロシア戦車軍団は、本家を上回る速度で突進し、枢軸軍は敗報を伝える前に連絡網が寸断され、麻痺状態に陥った。


 ボルゴグラードの西方50キロ、ドン川西岸のゴルビンスキーに露営していた、ドイツB軍集団第6軍のフリードリヒ・パウルス大将は、わずか10キロしか離れていないグロムキーにロシア軍の戦車が威力偵察に現れたと聞いても、信じようとはしなかった。

 総攻撃が始まってから、わずか2時間しか経っていなかったからだ。


 翌朝も、凍てつく大地から舞い上がる風花をついて、火砲の一斉射撃が口火を切った。


 ロシア第13機械化軍団が雪崩を打って進撃する。

 その28キロ南では、第4機械化軍団と第4騎兵軍団が攻撃を開始した。


 ここでも、ルーマニア第4軍団はよく戦ったが、遅まきながら対戦車砲を1個連隊に1門配備するという程度の弥縫策では焼け石に水で、ほどなく壊滅する。


 3日目には、ロシア第4機械化軍団がドイツ第6軍まで32キロに迫った。


 第6軍は、2個の装甲師団を除いて機械化されておらず、重火器の移動は軍馬が頼りだ。

 戦車のスピードには対抗すべくもない。

 パウルス大将は、やむなく塹壕を掘り、守りを固める道を選んだ。


 4日目、カラチでドン川を渡ったロシア軍の3個戦車軍団は東へと進み、翌日、第4機械化軍団と合流して包囲を完成させた。


 第6軍と枢軸軍、30万の兵士が閉じ込められ、ドイツB軍集団は瓦解した。


 ドイツ軍は、B軍集団の残存部隊を再編してドン軍集団とし、エーリヒ・フォン・マンシュタイン元帥を司令官に任命する。

 元帥は、第4装甲軍に対し、直ちに北上して第6軍の救出に向かうよう命じた。


 ロシア軍も、いずれドイツ軍が反撃に出ると想定はしていたが、バラバラになった部隊を再度集結させ、武器弾薬を補給するにはそれなりの時間を要し、ぬかるんだ道路も装甲師団の機動の妨げになると考え、狙撃兵師団に対応を任せた。


 ところが、第4装甲軍を率いるホート上級大将は、泥濘を脱するやいなや北へと猛進し、後手に回ったロシア軍を次々と撃破、わずか1日で包囲線まで64キロのムイシコワ川に達する。


 急報を受けたジューコフは、思わず声を荒らげた。

 第4装甲軍の動きに呼応して、第6軍の2個装甲師団が反転攻勢に出たなら、包囲を突破されかねないからだ。


 だが、ロシア戦車軍団の攻撃から第6軍を守るべく、東奔西走してきた彼らの燃料は既に枯渇していた。


 ドイツ軍の動きが止まったという知らせを受け、ジューコフは胸をなでおろす。

 だが、このまま放置すれば再び付け入る隙を与えかねない。

 そこで再度攻勢に出ることにした。


 装備の劣るイタリア第8軍に狙いを定め、ロシア第6軍と第1親衛軍に西方のドン川上流から、第3親衛軍にはチル川上流から攻撃を開始して、挟撃するよう命じる。


 イタリア軍は、2日間は必死に抵抗したものの、ついには潰走して防衛線に巨大な空隙が生まれた。


 最前線からはるか200キロ離れたタツィンスカヤに、ドイツ軍の一大補給拠点があり、飛行場には多数の輸送機がひしめき合っていた。


 ドイツ空軍が空襲に備えて7門の高射砲を設置したのに対し、陸軍はこんな後方に敵の地上部隊が攻めてくるとは夢にも思わず、守備隊を1兵も配置しなかった。


 そこに、ロシア軍の戦車部隊が大挙して押し寄せて来たのだ。


 防空部隊は、高射砲の水平射撃で応戦する。

 しかし、わずか7門では多勢に無勢、飛行場は瞬く間に蹂躙され、輸送機は飛び立つ間もなく、1機残らず破壊された。


 ドイツの全空輸能力の1割が、わずかな時間で黒焦げの残骸と化し、補給物資を失ったコーカサスの枢軸軍は、孤立無援となった。


 連合国の反撃は、第1弾と第2弾こそ空振りに終わったが、この第3弾でついに枢軸国の喉元に迫ろうとしていた。

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