インパール 14
その時、第31師団の砲兵陣地が咆哮した。
山岳地帯の山道を踏破した第31師団が運んできた最大の砲は、連隊砲の41式山砲だ。
榴弾砲を10門備える英軍に砲撃戦を挑むのは到底無理で、広田上等兵を含め、誰もそんなことは期待していなかった。
だが、宮崎少将は、第15師団の師団砲前送成功の報を聞き、フミネからカングラトングビまでは第15師団の進攻ルートを借り、そこから先はコヒマ=インパール街道を北上するという、長大な迂回ルートを辿って、師団砲を前送するよう命じた。
そしてついに、師団砲の91式10センチ榴弾砲が到着したのだ。
しかも、第15師団からの増援が加わった。
第15五師団は、セックマイ高地陣地を砲撃した際に弾薬が不足し、第31師団に頼み込んでフミネに残置した弾薬を借用したことがあり、その返礼として応援に駆けつけた。
2個師団分の砲弾が、イギリス軍陣地に降り注ぐ。
砲撃が止むやいなや、第58連隊が総攻撃に転じた。
第3大隊がテニスコートの塹壕陣地へ、第1大隊がバンガロー陣地へ突入する。
イギリス軍の兵士は、日本兵は身長が低く、体格も貧弱で、武器は旧式、弾薬も充分とはいえず、その上食糧が不足して飢えていると聞かされていた。
捕虜の尋問でそれを知った宮崎少将は、各大隊の第1陣に背が高く筋骨たくましい兵士を集め、最新鋭の武器と弾薬をふんだんに渡し、コヒマの新市街で鹵獲した食糧を腹一杯食べさせた。
第1陣の猛攻を受けたイギリス軍は、新たな精鋭部隊が投入されたと思い込み、浮足立った。
テニスコート陣地とバンガロー陣地を突破した第1陣の兵士たちは、ギャリソンヒルの急坂を駆け上がる。
工兵がバリケードを爆破、手榴弾が炸裂し銃剣が火花を散らす白兵戦の末、第1陣が最初の塹壕を制圧、第2陣がそれを乗り越えて次の塹壕に殺到し、第3陣がさらにその先へ突入する。
連続攻撃で、イギリス軍に立ち直る暇を与えない。
実際には、第1陣の戦闘力こそ破格だったものの、第2陣の兵士の体格や武器はイギリス軍が予想した通りだし、第3陣となるとさらに小柄で、武器は旧式、携帯する弾量も少なかったのだが、敵の防衛線を突破したという勢いが弱兵をも強兵に変えた。
それに呼応して、コヒマ北方を迂回した第138連隊がジョットソマの北アッサム旅団本隊に、第124連隊がズブザの榴弾砲陣地に襲いかかる。
コヒマ守備隊は潰走した。
ギャリソンヒルから、青い信号弾が上がる。
コヒマは陥落した。




