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インパール 13

 第58連隊第2大隊は、夜の間に防衛線を下げることになった。


 焼け落ちた倉庫群に静寂が訪れるのを待ち、負傷者を後方に移送して戦死者を運び出す。

 広田上等兵は、重機関銃を担いで100メートルほど後退し、待避壕を新たな陣地とした。


 重機関銃中隊が掩体を補強する傍らで、歩兵部隊が続々と到着し壕に身を隠す。

 突然、監視兵が叫んだ。

「砲弾が来るぞ!」


 夜襲を警戒したイギリス軍が、暗闇に向かって公算射撃をしかけてきたのだ。

 たちまち周囲一帯が轟音と振動に襲われる。


 後退せずにいたら、壊滅したかもしれない。

 しばらくすると着弾点が移動し、徐々に静けさが戻ってきた。


 定刻になり、今度は日本軍の火砲が火を噴いた。

 山砲や擲弾筒の榴弾が宙を飛び、敵陣で次々と炸裂する。


 重機関銃や軽機関銃の銃弾が、撃ち込まれた。

 最後に曳光弾が発射され、歩兵部隊が突撃を開始する。


 50メートルも進まないうちに、両軍が激突した。

 広田上等兵の目の前で怒号が上がり、機関銃や自動小銃が乱射され、手榴弾が投げ込まれる。


 やがて銃声はしだいにまばらとなり、青い信号弾が上がった。

 ジェイルヒル陣地の奪取に成功したのだ。


「機関銃隊、前進!」

 敵の塹壕に入ると、機関銃、自動小銃、サブマシンガンや手榴弾が散乱していた。

 奥まで進み、北隣の輜重隊陣地を窺う。


 丘陵の東側を通るコヒマ=インパール街道は、輜重隊陣地を過ぎた辺りで西に折れ、ジェイルヒル陣地との間の鞍部を抜けると再び南に方向を転じ、インパールへ向かう。


 陣地と陣地の距離は、100メートルほどだ。

 こちらからの斜面はなだらかな下りだが、輜重隊陣地の前面には高さ3メートルの崖があり、その上には鉄条網が張られている。


 敵陣のいたるところから自動小銃と機関銃の発射光が煌めき、照明弾があたりを照らし出した。

 日本軍も、山砲、重機関銃、軽機関銃、擲弾筒で応戦する。


 イギリス軍は、砲口炎から日本軍の砲座、銃座の位置を特定し、迫撃砲弾を集中させた。

 砲兵隊、重機関銃隊の死傷者が続出する。


 それにかまわず、歩兵部隊は斜面を駆け下り、崖に梯子をかけた。

 鉄条網に手榴弾を投げ込んで破砕し、崖を這い上がる。


 崖を越えた先には、さらに塹壕が何重にも掘られていたが、突撃を繰り返してそれを制圧、日が昇っても攻撃を続け、ついに輜重隊陣地を攻略した。


 翌々日に行われた野戦補給陣地への攻撃も、夜襲だった。

 日が落ちてから、密かに大隊砲、山砲、重機関銃を運び込み、イギリス軍が寝静まるのを待って深夜に攻撃を開始する。


 突然寝込みを襲われて、イギリス軍が右往左往する間に、工兵が鉄条網を切断し、歩兵が梯子を押し倒して駆け上がった。


 敵陣まであと40メートルに迫ると、稜線上の夜空に黒い影が次々に現れ、反対側の斜面へと消えていくのが見えた。


 敵兵が退却を始めたのだ。


 それを見た中隊長が、軍刀を振り上げた。

「追撃!」

 叫びながら、先頭を切って斜面を駆け上がる。


 敗走するイギリス兵に、第2大隊が襲いかかった。

 隣のクキピケ陣地へ算を乱して逃げ込む英兵に、折り重なるように大隊が迫る。


 イギリス軍は、同士討ちを避けようと、攻撃を躊躇った。

 それが命取りとなる。


 勢いに任せて突入した第2大隊は、野戦補給陣地のみならず、クキピケ陣地まで一気に制圧してしまった。


 日が昇り、重機関銃中隊は占領した陣地の北端に進出した。


 足元の斜面は、樹木が砲撃で根こそぎ吹き飛ばされ焼き尽くされて、赤茶けた山肌が露わになっている。


 それに比べて、わずか80メートル先のイギリス軍の最後の砦、ギャリソンヒルは、瑞々しい緑に覆われて、眩しいほどだ。


 再び、敵の砲兵陣地から祭り太鼓を敲くような音が聞こえてきた。

 数秒後、落雷のような轟音とともに、凄まじい振動が襲う。


 それが終わるやいなや、イギリス軍の反撃が始まった。

 横一線に展開した歩兵が、4、5人ごとに1組になり、先頭の兵の投げる手榴弾を合図に喚声を上げ、自動小銃を乱射しながら突撃してくる。


 重機関銃で掃射し、瞬時に薙ぎ倒す。

 だが、倒しても、倒しても、次から次へと突っ込んでくる。

 日本軍さながらの肉弾突撃だ。


 クキピケ陣地の第2大隊は、死傷者が続出し、戦闘可能な兵員がついに20%を切った。

 死傷率60%で「全滅」とするのが世界の常識だから、既にその水準を超えている。


 日本軍の突撃を受けて退却したイギリス兵の気持ちが、今更ながらよくわかった。

 残った首の皮一枚で戦闘を続けているものの、防衛線の崩壊は時間の問題だ。

 広田上等兵も、死を覚悟した。

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