表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/97

モルディブ 7

 イギリス軍の装甲空母「イラストリアス」が、攻撃隊の収容を始めるのとほぼ同時に、レーダーが接近する飛行機の群れをとらえた。

「東方100キロに敵機」


 艦長のレオポルト・シフレ少将が言った。

「フランス・ヴィシー政府軍に、航空戦力が残っているとは思えない。アッズ環礁を襲った日本の空母が、どこかに隠れていたということか」


「直ちに迎撃機を上げますか?」


「いや、攻撃隊の収容を優先しよう。インドミタブルやフォーミタブルの戦例を見ると、日本軍の急降下爆撃では、ほとんど損害を受けていない。雷撃機にさえ気を付ければいいということだ。戦闘機は、さほど高度をとる必要がないから、時間にはまだ余裕がある」


 高度4000メートルに日本機が現れた。


 直ちに突入してくるかと身構えていると、編隊を組んだままゆっくりと旋回を始めた。

 こちらの隙を窺っているようだ。


 やがて緩降下で高度を落とすと、編隊を単縦陣に変えて急降下してきた。

 砲弾の時限信管を高度800メートルに合わせ、対空砲で弾幕を張る。


 空母「イラストリアス」は、正確な照準を優先して直進を保っていた。

 対空砲火が功を奏し、爆撃機が次々とコースを外れる。


 勇猛果敢に突入して、飛行甲板に250キロ爆弾を命中させる機もあったが、やはり少しばかりのへこみを作るだけだ。


 他方、低空から進入しようとする雷撃機は、F4Fの厚い防御陣に接近を阻まれていた。


 上空ではまた1機、急降下をあきらめた日本機が、緩降下のまま離脱していった。

「イラストリアス」で、気にとめるものは誰もいない。


 だが、防空軽巡洋艦「ハーマイオニー」の対空監視員は違和感を抱いた。

 何かを投下したようにも見えたからだ。


 とはいえ、弾幕のせいで、はっきりとしたことはわからなかった。

 ただの見間違いかもしれない。


「イラストリアス」の後方に、水柱が立った。

 わずかに遅れて、大爆発が起こる。


 これまでの250キロ爆弾とは、桁違いの破壊力だ。

 シフレ艦長は、以前見た光景を思い出した。


 ドイツ軍が1トン徹甲爆弾を投下した時だ。

 あの時は、Ju87が水平爆撃で投下したのだった。


 まさか、大型の徹甲爆弾を緩降下で投下したのか?


 また、水柱が上がる。

 さっきより近い。


「取り舵一杯!」

 シフレ艦長が叫んだ。


 だが、大型艦の方向は急には変わらない。

「衝撃回避態勢をとれ!」


 次の瞬間、戦艦の徹甲砲弾を改造した、800キロの99式80番5号徹甲爆弾が装甲甲板を貫通し、格納庫の床も突き破って、最下層で炸裂した。


 友永大尉の操縦する97式艦上攻撃機が、高度1500メートルから緩降下に入り、華麗な飛行技術で投下したのだ。


 続いて4発の800キロ徹甲爆弾が、「イラストリアス」のバイタルパートを破壊した。

 穿たれた船腹から海水が渦を巻いて流れ込む。


 江草少佐の目の前で、「イラストリアス」が大きく傾き、黒煙を上げはじめた。

 やがて行き足が止まり、総員退去が命じられる。


 それにもかかわらず、対空砲火は続いていた。

 船体が沈み始めても、止む気配がない。


 艦と運命をともにしようというのか。

 艦長ならばともかく、砲台の水兵たちまでもが。


 勇猛果敢を自負する帝国海軍といえど、いまだかつてこのような戦い方をしたことはない。

 驚くべき敢闘精神に、江草少佐の目には涙があふれた。


「イラストリアス」の姿が海中に消えても、少佐は大英帝国海軍に敬意を表し、紺碧の海を飛び続けた。


 しかし、神ならぬ身、わずか2か月後のミッドウェー海戦で、自身の乗る空母「蒼龍」が撃沈され、海に投げ出されることになろうとは、この時、知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ