モルディブ 6
アッズ環礁に残った山口少将と柳本艦長は、イギリス軍の次の動きを探っていた。
「イギリス軍の輸送船団が、南アフリカのダーバンに入ったようだ。彼らの狙いは、アッズ環礁の奪還なのか、それともマダガスカル島のフランス・ヴィシー政府軍の撃破なのか、どちらだと思う?」
「まずは、アフリカ大陸東岸の制海権を確立し、エジプトへの交通線の障害を排除するため、マダガスカル島を攻略するというのが順当なところではないでしょうか」
山口少将が言った。
「そうだとすれば、それを側面から奇襲するという手があるな」
「ミッドウェー作戦に支障が出ないように、アッズ環礁防衛以外の行動には出るなと、釘を刺されているのではありませんか?」
「問題のない範囲で、機に乗ずることは認められている」
「了解しました。しかし、敵にはレーダーがありますから、下手をすると敵を見つける前にこちらが探知されるおそれがあります。奇襲するのは、容易ではないでしょう」
「艦長はレーダーに詳しいそうだな。イギリス軍のレーダーの性能はどの程度だ?」
「高高度を飛行する編隊なら、80キロの距離で探知できるといわれています」
「単機の偵察機が、低空を飛べばどうだ?」
「高度600メートルくらいを飛行するのなら、発見されずにすむかもしれません。ただ、それでは視界が狭くなり、こちらも敵を見つけられない可能性があります」
「通常の索敵では難しいということか。ということは、どうやって敵の空母を見つけるかだな」
柳本艦長が提案した。
「イギリス軍がフランス・ヴィシー政府軍の基地を空爆するのを待って、その後をつけるというのはどうでしょう?」
「待ち伏せて、送り狼か。悪くないな。それにしても、そろそろイギリス軍に動いてほしいな」
「ミッドウェー作戦に間に合わせるには、あと1週間しか待てません。それでもギリギリです」
第2航空戦隊航空参謀の佐藤中佐が、「蒼龍」飛行隊長の江草少佐に声を掛けた。
「イギリスの装甲空母を沈めるのに、ずいぶん苦労したようだな」
「巡洋艦は250キロ爆弾で沈められたのに、空母があそこまで頑丈とは驚きました」
「驚いてばかりもいられないだろう。前回は他の空母も一緒だったが、今回は蒼龍、飛龍だけだ。
どうやって仕留める?」
「苦戦になりますね」
「しかも、本番が後に控えている」
「ミッドウェーですか」
「空母、戦艦を仕留めるには、やはり魚雷が必要だ。本番前に魚雷を使い切ることは避けたい」
「私に考えがあります。少し時間をください」
江草少佐は、「飛龍」飛行隊長の友永大尉を訪ねた。
友永大尉は驚いた。
江草少佐のアイデアが、前代未聞の奇策だったからだ。
「抜群の操縦技術を持ったベテランなら、不可能ではないかもしれませんが」
2人の議論は、深夜まで続いた。
1万の上陸部隊を乗せた輸送船団と、それを護衛する装甲空母「イラストリアス」、戦艦「ラミリーズ」を基幹とする艦隊は、南アフリカ東岸のダーバンを出港して、マダガスカル北端のアンツィラナナに向かった。
目標の西方370キロで、攻撃隊が「イラストリアス」を発進する。
フランス・ヴィシー政府軍は、17機のMS406戦闘機で迎撃したが、F4Fには歯が立たず、瞬く間に撃墜された。
イギリス軍の複葉爆撃機、ソードフィッシュとアルバコアが、悠々と爆撃を繰り返す。
やがて攻撃隊が引き上げにかかる頃、山の稜線から小さな影が現れ、密かに追いはじめた。




