モルディブ 5
夜が明けると、軽巡洋艦「阿武隈」のカタパルトから、1機の水上偵察機が飛び立った。
アッズ環礁方面からは、大きな黒煙が幾筋も棚引いている。
上空から確認するまでもなく、アッズ環礁の様相は激変していた。
至る所が煙に覆われ、石油タンクは燃え上がり、港湾設備も徹底的に破壊されている。
滑走路は穴だらけとなり、格納庫は焼け落ちて、黒焦げになった鉄骨だけが残っていた。
イギリス東洋艦隊の壊滅を受けて、守備隊は夜の間にアフリカへ撤退したようだ。
一木支隊と第2連合陸戦隊の上陸作戦は、演習のようにあっけないものに終わった。
数日後、ドイツの諜報機関から、新たな情報がもたらされる。
イギリス軍の装甲空母「イラストリアス」に護衛され、1万の上陸部隊を乗せた輸送船団が、大西洋を南下しているというのだ。
第1航空艦隊は、次のミッドウェー作戦に備え、日本に戻る必要がある。
だが、アッズ環礁をガラ空きにすれば、イギリス軍に奪回されかねない。
そこで、第2航空戦隊の「蒼龍」と「飛龍」を一時的に残して、イギリス軍の動きを監視、必要あらば迎え撃つことにした。
「赤城」、「瑞鶴」、「翔鶴」は、錨を上げ北へ向かった。
セイロン島のトリンコマリー軍港を空襲し、修理中の空母「ハーミーズ」を沈没させ、その後日本へと針路を変える。
とはいえ、実際に直行できたのは、「赤城」だけだった。
オーストラリア領パプアニューギニアのポートモレスビー上陸を目指す第4艦隊の支援要請を受け、「瑞鶴」と「翔鶴」が軽空母「祥鳳」の助太刀をすることになったからだ。
もちろん、上陸作戦に直接参加するのは「祥鳳」だけで、「瑞鶴」と「翔鶴」はミッドウェー作戦の妨げにならないように、後方で米空母の出現に備える、いわば「用心棒」のような立場だ。
当初は「加賀」が担当する予定だったが、パプアニューギニアのラエ・サラマウアに上陸した陸軍の大隊や海軍特別陸戦隊、輸送船、護衛艦艇が、米空母艦載機の奇襲攻撃を受けたため、1隻では心細いと第4艦隊が訴え、急遽、第5航空戦隊の投入が決定された。
とはいえ、米軍の空襲は、日本側に迎え撃つ戦闘機が1機もいなかったにもかかわらず、輸送船を4隻沈めただけで、護衛艦艇は損傷のみという、不徹底なものだった。
連合艦隊司令部は米空母の動きを、おそるおそる一撃してすぐに逃げる、今でいえば「ピンポンダッシュ」の類とみなし、第4艦隊の懸念は軍政畑が長く実戦経験に乏しい司令官井上成美中将の過剰反応だと考えていた。
第5航空戦隊の投入も、編成後1年足らずで、練度不足のため真珠湾攻撃にも参加できなかった、新米部隊に実戦経験を積ませるいい機会という程度の認識だった。
ところが米軍は、日本機動部隊の動きを事前に察知し、真珠湾の敵討ちをする機会を窺っていた。
ラエ・サラマウアへの空襲は、日本の空母をおびき出すのが狙いで、大型空母「レキシントン」と「ヨークタウン」が待ち構えていたのだ。
両軍が接近すると、ほぼ同時にお互いの艦艇を発見し、艦上戦闘機同士が激突、艦上爆撃機、艦上攻撃機が交錯して相手の空母に襲いかかるという、史上初の本格的な空母航空戦となる。
第5航空戦隊は、「レキシントン」撃沈、「ヨークタウン」大破という戦果を挙げたが、軽空母「祥鳳」が沈没、「翔鶴」も大破し、ミッドウェー作戦には参加できなくなった。
珊瑚海海戦である。




