――幕間―― 神の現実逃避
こんにちは、現実の私。
――誰……?
私は、あなた。そして、あなたは、私。
――……。
驚くのも無理ないよね。
だって、私はあなたが生み出した架空の私。
この作られた世界で創造されたあなた。
ねえ、今、あなたがどんな状況にいるか、もうわかってるよね?
――えーっと……すごく眠い。
え、いや……ずっと寝てたでしょ? 今の今まで。
そうじゃなくて、現実の私がどうなっているかわかってるでしょ?
――あー……そういうことか……。
うふふ。ようやく状況が掴めたようね。
――入社前課題やってなかった……すごく死にたい。
いや、あの……死にかけているんですけど。
そうじゃなくて、もっと身近な問題なんだけど。
――あーそういえば洗濯物出しっぱなしだった……まぁもう2年くらい使い古した下着だから別にいいか。もってけードロボー。
いや、違……もう少し乙女の恥じらいというものを持って現実の私!
あの……なんでこんな空間にいるのか気にならないの?
――……別に?
ちょっ……あの……よくあるでしょ?
もう一人の自分が出てくる、こう……深刻な感じのはずなんですけど。
――……あーあれでしょ? どうせ闇堕ち展開でしょ。そういうの、もう飽きられてない? 大丈夫? 闇堕ちじゃなくて爆笑堕ちとかにしといたら?
だから深刻な感じだって言ってんでしょ!
どんだけ平常心なのあなた!
――はぁ……あのさー、人をこんなとこに連れ込んどいて説教はないんじゃない? あたしそういうの嫌い。自分から出ていったくせに呼びに来ないと怒る中学の担任くらい嫌い。
……それは、まぁ、確かに……。
――あと、話が回りくどいのよ。用件は手短に、長めの重要案件なら書面で持ってきなさい。
……すみませんでした。
――わかればよろしい。それで? あたし今どうなっているの?
よ、ようやく話を聞く気になったようね。
うふふ、嬉しいわ。
あなたは今、昏睡状態なの。
早く目覚めないと、あなたの体、死んじゃうかもそれないわよ?
――え……死ぬって……冗談じゃない……のよね?
あなたが望んだんでしょ?
元の世界に帰りたくないって。
だから望みを叶えてあげようかと思ったんだけど……嫌だったかしら?
――……ということは、入社前課題も卒業研究もしなくていい……ってことよね?
……え、あ……うん。多分、ですけど……。
――滞納してた家賃もあわよくば払わなくていいってことよね!? だってしょうがないもんね!? 昏睡状態なんだから仕方ない!
……あ、あのー……。
――よっしゃぁぁぁ!! あの口の臭い家賃取り立てババアめ! ざまぁみろ!!
なんでそんなにこの状況を喜べるのよ!!
死ぬかもしれないのよあんた!
助かりたくないの?
――え? そりゃ死にたくはないけど、今の医療ならある程度点滴的な何かで延命は可能だと思うし、とりあえず4月入るまでは適当にこの世界で油売っとくわ。
いやいやいや! 何新年度に持ち越そうとしてるのよ!
――確かあと半年くらいあるから、長めの夏休みってことでいいよね! よかったー! 課題も単位も無い、生きるために金を稼いで飯を食う生活から抜け出せるなんてあたしは神がかってるんじゃないかな!!
すみませんでした!
私が悪かったので話を聞いてください、お願いします!
――ったく、うるさいなぁ。早く虫取り網とカゴを用意してよ。とっととキャンプにいくよ。
どこまで現実逃避しようとしてるのよ……。
あの……元の世界に本当に戻りたくないの?
――だから、回りくどいのは嫌って言ってるでしょ。どうせ帰すつもりないくせに。
……。
――いいよ、あたしの体。好きにしなよ。
……。
――それとも、この世界の管理権限の方?
なぜ……。
――だから、登場人物闇落ちパターンでしょ? もう一人の自分に精神支配されるあれでしょ? そうでもしないと、ここから出してくれないでしょ。
何でそうも簡単に……。
――ま、現実世界に未練なんて……なくは、ないけど。まぁ、戻ったって嫌なことしかないし。それより、この世界で自由に遊んでいたほうが気が楽でいいの。だから、逆にあなたにお願い。あたしの姿好きにしちゃっていいから、代わりに世界の管理をよろしくねー。
……わかった。覚悟は……いいのね?
――そうだなぁ……もし、アイツがこの世界に来るようなことがあったら、あたしの気持ちを味合わせてやってもらえる? いつも口うるさくてさー。少しは懲りてもらわないとね。
まぁ、仕方ないわね。あなたは? どうするの?
――このまま連れ帰られても嫌だから、この世界の何処かに隠れようかなぁと思う。まぁ見つけてもらえなかったらそれこそ死んじゃうし、適当にヒントを残そうかと思うけど。
あなたは、この世界で神様を続けたいんじゃなかったの?
――作っているうちにさ、何だかあたしもこの世界で遊んでみたくなっちゃってね。楽して暮らすのもいいけど、何もかも忘れて生まれ変わった気持ち味わいたいなぁと。
私は、あなたの願いを叶えるために生まれた意識……あなたの希望を叶えるわ。
何だか、最初変な雰囲気で話しかけちゃってごめんなさいね。
――いいってことよ。なんかそういう展開的なのあたしがイメージしちゃってたんでしょ? さて、この広大な世界を舞台としたかくれんぼの始まりね! いやーあたしがどこに隠れているか、あんたも見つけられるかしらねー?
もし、私が彼よりも先に見つけたらどうする?
――むむ……そうきたか。そうだねぇ……そしたら、あたしの現実の体あげちゃう!
いや、それって最終的にあなたの勝ちなんじゃ……。
――ふっふっふ! まぁ、せいぜいこの世界を維持してくれたまえ!
本気で生き返るつもりないな……この人……。
――とりあえず、あたしが隠れるから、ちゃんと百数えるのよ!
ひゃ、百・・・? そんなに!?
――じゃあ隠れたらあんたの好きにしていいから、今いった条件だけは絶対に守ってね! それじゃ。
……なんて自由なんだこの神……。
まぁ、いいわ。
さて、神様の現実逃避に付き合ってあげますか。
あなたの潜在意識である私が、あなたの代わりに神様をやってあげる。
彼は……どうしようかな。
「あたしの気持ちを味合わせたい」って言ってたけど……。
……なってもらえばいいのかな? 本人に。
あと、百数えるってどういうことかしら……。
百年くらい……時間加速して待てばいいのかな?
……本当に話を聞かないなぁ、私。
今、この世界に起きている異変……さすがに気づいているよね。神様だし。




