対となす2つの刃
[壁]‥) チラッ ]ω-)
リゼットとリミリィ。
客観的に見てみれば、対となす双子だと思うだろう。しかし、容姿は似てはいるが二人は雰囲気的にも正反対だ。
リゼットは、荒々しく轟々しい。
リミリィは、穏やかで柔らか。
雰囲気的にはこの表現で十分だろう。
そして更に武器も正反対である。
【紅刀】は、火を司る天刀。
【藍刀】は、氷を司る天刀。
既に両者は決闘を闘技場にて両者共にピリピリとした殺気を放ちながらまだ抜刀していない筈の刀から力が使用者の反応に鼓動するかの如く震える様に迸っていたのだ。
「へっ!」
殺気を放ちながらも楽しそうに笑うリゼットの【紅刀】から炎竜の息吹の如く炎を撒き散らす。しかも、その炎は吹き出す度に蒼炎をも放っていた。バリバリと轟く稲妻は閃光の様に鋭い。
「――――っ!」
対して強者の余裕と言うべきか、そのリゼットの威圧に堪えるリミリィも負けじと【藍刀】から冷気が溢れ出す様に当たりの地面が凍ってしまっていた。が、リゼットの放つ殺気と交じる【紅刀】の炎と稲妻に気圧されてしまう。
「おい、腰引けてんぞ」
「っ、余裕そうですね貴女は」
「余裕?そう見えてんならテメーの頭がお花畑だな。殺し合い、とまではいかねぇが真剣勝負に余裕こく訳にいかねぇ。余裕っつうのは、単に相手をナメる屈辱行為だ。相手にそんな失礼な事はしねーよ」
「なら――――」
「武者震いみたいなモンだ。テメェとは何となく、厄介そうな相手じゃねぇか、ってな」
「…………褒め言葉、と受け取りましょう。貴女は強い。それは理解しています。ですが、それでも挑ませてもらいますッ!!!」
「来なッ!!!受けて立つッ!!!」
両者が抜刀した刹那、【紅刀】・【藍刀】の刀身が剥き出しになり、その刀身に力が集い、更に集い、その力が圧縮されてその刃に集約されていくのだ。
【紅刀】の刀身は、紅い閃光を放つ真っ赤な刃は一回り大きく当たりの大気は目に見える様にその流れが炎をして空間が歪んでいた。
【藍刀】の刀身は、蒼い閃光を放つ白銀の刃は刺々しい刃が重なり、大気は時が止まったかの様に空間が凍っていた。
そして、互いに接近するのではなく後ろに大きく後退した瞬間にその刃を斬撃として振り放ったのだ。
「【火之迦具土】ッ!!!」
「【断罪之零獄】ッ!!!」
両者の莫大なエネルギー刃が衝突した時に、爆発ではなく世界の中に一瞬夕焼けと晴天2つの大空が分かれて現したのだ。が、その風景は幻想的で美しくはあったものの蜃気楼の如く消え去り、その代わりに衝撃波が地割れと共に起こってしまう。
「あっ、このっ!?」
即座にシキは袖から護符を大量に出して闘技場の周りに展開し、その衝撃波と地割れを防ぐ。が、それでもシキが持っていた護符で何とか防いだものの展開した8割はリゼットとリミリィの【火之迦具土】と【断罪之零獄】により焼却、凍り崩れてしまった。
「[神気]を込めてもコレッ!?でも、次は―――――」
更に力を込め編み込んだ護符を更に展開し、辺りの被害を防ぐ為にシキは引き続き結界を何重にする。更にはカグヤの王に付き添う宮廷魔道士長ニ名によるサポートもあり、漸く収まったのだ。
「ふぅ」
「いやはや、ここまでの結界を張るのは骨が折れますな」
「ふぉっふぉっ!シキ殿までが苦戦するとは思いもよりませんかったのぅ」
「いや、すみません。うちの妻が」
「なぁに、これも訓練の一環だと思えば私達の経験の糧となりましょう」
「まさかこんな老いぼれ宮廷魔道士でもまだやれるもんじゃのぅ。またまた震えましたぞぅっ!」
やはり宮廷魔道士長である中年の白髪男性と初老の女性は手練だ。それなりに経験が豊富な為かシキよりも展開は早く様々な魔法で応用し、即座に対応したのだ。先の戦いで更に実力を高めたのだろう。
カグヤの王やシャルロットや他の次期国王候補者達は、リゼットとリミリィの戦いには誰もが驚愕し戦慄する者もいた。
「ふむぅ……まさかリミリィがこれ程腕を磨いていたとは」
「確かリミリィ様は刀の才能は―――――」
「シャルロットに次ぐ剣技の持ち主……が、これ程とは思ってもみなんだ。二年前なら軽く片腕であしらってしたのだが。シャルロット、どうだ」
「正直言うと、すごく気持ち良さそ――――」
「やめろバカ娘」
「冗談……です、父上。はぁ…………リミリィの剣技は剣聖レベルなのは間違いないでしょう。正直、リゼット殿には劣る、とは思っていましたが何とか喰らいついています。我が妹ながらリゼット殿と戦う中で成長しているとは、末恐ろしい」
「…………シャルロット王女。この戦いを止めろと頼めば可能か?」
「?あぁ、構わないぞ。無論十分楽しんでからだかなっ♪」
「(つまりは余裕か。リミリィ様だけではなくリゼット相手でも軽く止められる実力はある…………ぶっちゃけ、リミリィ様よりもこのシャルロット王女の方が恐ろしい)」
正直勝てるかもしれないが、最も厄介な相手だとそうシャルロットを評価していた。未知というより、粘着力の様な執着心があるシャルロットはただでさえタフだ。ドMだからこそ、わざと攻撃を受けてはいるが彼女が攻撃を避けた場面は見たことがない。先の戦いでも女神の使徒相手に引けを―――――いや、むしろ圧倒していたのだ。まるで不動―――――父親を思い出しそうなその頑丈さはシキには真似できない。
「――――シッ!」
「っ!?―――――フッ!」
【火之迦具土】と【断罪之零獄】を放ち、その衝撃波が収まったかと思うと入れ替わる様にその衝突していた力があった中心にリゼットとリミリィが【紅刀】と【藍刀】の双方の刃がぶつかり合う。
剣戟は荒れ狂う嵐の如きリゼットの剛刀がリミリィに襲い掛かる。しかし、リミリィはその荒れ狂う刃を食らいつく様に防ぎながらも反撃もしていた。が、その反撃もリゼットの荒れ狂う刃に押し流されてしまうのだ。
「剣戟の衝撃波が凄いことに」
「リミリィ様は【鬼神】に憧れておったが、本当に【鬼神】になるつもりですかのぅ」
「ならリミリィ嬢を圧倒するリゼット殿は【鬼神】の生まれ変わりか」
「ですが、何処かリミリィ様も楽しそうですな。やはりシャルロット様以外に刀での戦いの相手はいなかったからですから」
「歳が最も近い……姉と妹みたいですな。あれほど生き生きしているリミリィ様は久々です」
この殺し合いの様な戦いに、医療班が待機しているものの全く動じていない。少し話していると過去にシャルロットとリミリィもこの様な戦いを頻繁に起こしていた様だ。
「そう言えばだ、シキよ。『煌めく九尾の狐』、のことだがな」
「その名前辞めてください、本当に」
「カッカッ!よもや巷で騒がれておる『煌めく九尾の狐』が人とは、いやシキとは思うまいて。しかし、『煌めく九尾の狐』―――――正式に【ミュトス】と」
「ぇ、待って聞いてない」
「昨日決まったからな。【ミュトス】というモンスターを我が国の【国獣】として認定したから」
「こ、国獣……?」
「国の象徴、というべき存在のことだ。流石にあの三体の獣までは難しかったがな。そう言えば冒険者ギルドから報告であった、知性あるモンスターの中にはその三体の獣を神と崇めておるらしいが…………」
「…………後程確認します」
「頼む。して、我が国を第二の郷とし伯爵の名を――――――」
「カグヤの王。今俺はやるべきことがある。それを終えるまでは…………」
「異世界人の保護と送還、か。今お主の世界では非常に混乱している状態だと聞いておるが」
「えぇ。不味い状況、とのことですが今の俺にやれることは無い。ただ、今できることとやれることをするまで―――――」
「その使命を全うする様、誠に天晴れ。だが、わしはお主の本音を聞きたい。本音はどうだ」
「…………正直、お受けしてもいいかと、とは思ってます。この世界は元の世界との技術的な差があるかと侮っていましたが、実際はそう大差の無いものでした。魔力か、電力か。ただその違いなだけですし、生活水準も中々に高い。けど、情けない話恋しくもあるんです、故郷が」
「そうか。もし、この世界とシキの世界を行来出来る様になれば―――――」
「ははっ!そうなれば間違いなくここに住むでしょうね。この世界は、俺の身体によく馴染みますから」
「左様か。シキの意見を尊重するが―――――そうなれば、王として精を出して頑張らんとな、とそろそろ決着がつくかの」
「そのようですね」
先に折れたのはリミリィであった。
掠り傷はあったが、体力的に限界が先に来たのだろう。膝が着き、【藍刀】を持ち上げられないのか腕は痙攣したかの様に小刻みに震えている。汗も滝のように流れていたのだが、しかしその瞳には諦めの文字は無い。
一方のリゼットも息を上がりながらも心底楽しそうにリミリィを見下ろしていた。【紅刀】を肩に担いでいる姿は、まさしく鬼神。
「―――――私の負け、です」
「オレの勝ち、だな」
負けを認めたのはリミリィであった。
悔しくはあったが、久々に全力を出した為か空を見上げて清々しい気持ちもあったのだ。そして息を整え、何か決意したかと思うと【藍刀】を鞘に納めリゼットの元へ歩む。
「完敗です」
「そうかァ?やり難くて梃子摺ってたけど」
「謙遜を。ですが、貴女になら―――――これをお渡ししてもいい。そう感じました」
そう言うとリミリィは鞘に納められた【藍刀】を腰から抜き取り、それをリゼットに差し出したのだ。これに驚いたのは国王や次期候補者、そしてこの場に居た者達である。
それよりも驚いたのはリゼットではあるが―――――。
「や、要らねぇよ。受け取り困るわ」
「ですが、貴女こそこの【藍刀】に相応しい人。それに対となす【紅刀】も………」
「んーならよ」
差し出された【藍刀】を受け取らず、リゼットは己の【紅刀】を鞘に納めてそれをリミリィに押し付けたのだ。「ひょぇっ?」と変な声を思わず漏らしたリミリィだが、リゼットは言う。
「なら、テメェにやるよ【紅刀】」
「貴女の御祖母様の形見―――――」
「確かにオレにとっても大事なモンだけどな。けど、お前ならいいって思ったワケよ。おら。一応国宝なんだろ?大事に飾んのもイーけど、テメェが使えるようになっとけ」
「…………やはり」
「勘違いすんじゃねーぞ。テメェは負けた。だからよ、次は【紅刀】を使ってまた挑んでこい。何時でも受けて立つからよ」
「はぁ……全く貴女は。わかりました。このリミリィ、貴女の形見【紅刀】、頂戴致します」
この瞬間、倭国カグヤに離れ離れとなっていた【藍刀】の対である【紅刀】が戻ってきた瞬間であった。礼儀を持って【藍刀】を腰に戻したリミリィは【紅刀】を突き出したリゼットへ膝を折り、両手でそれを受け取ったのである。
「お、おぅ?」
「次こそは、この【紅刀】と【藍刀】で貴女を打ち負かします」
「二刀流相手は初めてだ。ま、暫く同じ二刀流として教えてやんよ」
「ありがとうございます……敵に塩を送るとは、後悔しないでくださいね」
「あァン?ぶっちゃけ、テメーよぇーから!負ける気しねーから」
「いいましたね?ならば直ぐに二刀流の伝授をお願いします。必ず貴女を負かしますから。あ、でも女の魅力としては圧勝ですね私」
「ンだとゴラァっ!」
ぎゃー!ぎゃー!と仲の良さそうな口喧嘩に周りは未だに動揺を隠せない。しかし、一部の者達は二人のその様子を暖かい笑みで見守るのであった。




